日本の司法はおかしい、だから闘い続ける

周防正行監督に裁判の問題点を聞く

日本の捜査当局の人に取り調べへの弁護士同席なんて話をしたら、何をバカなことを言ってるんだという顔をされます。そんなことをしたら真実を話さなくなる。密室で被疑者と取調官が信頼関係を築き、お互いが心を開いて話すことで、真相が明らかになる、治安の良い日本がわざわざ治安の悪い国の取り調べ制度を見習う理由などない、という論法です。でも、「終の信託」(2012年公開、患者から重篤になった場合の対応について意向を伝えられていた医師が、その意向通りに取った対応で刑事訴追を受ける)がオーストラリアで上映された時、質疑応答で最初に受けた質問が「なぜ取り調べに弁護士が同席していないのか」でした。捜査機関の言い分を説明しましたが、理解されませんでした。

――とりまとめられた答申案に、イスを蹴飛ばして反対するという選択肢はなかったのでしょうか。

この審議会は全会一致が原則でした。僕らが反対したら審議会は答申を取りまとめられないまま解散になり、何ひとつ現状と変わらないということになった可能性もあります。少なくとも、今回の案でほんのわずかでも制度は変わる。そのほんのわずかの積み重ねで、数十年後には大きく変わっているかもしれない。その可能性に賭けて妥協しました。

――ハードルは高いですね。

そもそも民主党が議員立法でさっさと手当てしていれば良かったのに、と思ったりもしました。

――行政立法にしようとしたから審議会でもむ、という話になり、抵抗勢力による巻き返しが可能になったということですね。

これからもこのテーマを追っていく

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――被害者の救済についても一言おありだそうですね。

犯罪被害者やその家族は、事件そのもの以外でも様々な被害を受けます。マスコミの取材攻勢や心ない人からの中傷、そして一家の働き手が亡くなったり働けなくなったりすることによる経済的なダメージです。その被害者を、警察や検察はある意味、自分たちの立場を守るために利用している面もあると思います。警察や検察は「被害者のため」と称して、自分たちの捜査を正当化しようとします。被害者参加制度もでき、裁判で意見を述べられるようになりましたが、経済的な支援を含め、刑事司法の枠組みとはまた別の枠組みで、被害者やその関係者に寄り添う制度が必要だと思います。

――たとえばどんな仕組みが考えられるのでしょうか。

被疑者国選弁護人制度は当初、弁護士会の当番弁護士制度から始まりました。かつては起訴されて正式に「被告人」になってからでなければ国選弁護人を付けられなかったので、「被疑者」の段階から弁護人を付けられる様、九州の弁護士会が弁護士会の負担で被疑者の弁護を始めたものが、全弁護士会に広がり、ついには法制化されました。「被害者」に寄り添う被害者国選という制度があって良いと思うし、その布石としての制度作りを弁護士会に期待しています。

――弁護士会でも被害者に寄り添う制度は始めている様ですが、認知度はまだまだの様です。警察が被害者に弁護士会にそういう制度があるということを、ルーティンで告知するようになる必要がありますね。監督はこのテーマでの映画制作を今後も考えておられますか。

審議会の結論は不本意なものでしたが、少しずつでも変えていかなければなりません。そのためにも、現時点で具体的な計画があるわけではありませんが、これからもこのテーマは追っていきます。

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