日本の司法はおかしい、だから闘い続ける 周防正行監督に裁判の問題点を聞く
――メンバーの6割以上は権力側ですから、一般有識者の主張は押さえ込めると見たのでしょうか。監督と村木さんが入った審議会が出した結論なら権力側としては免罪符になりますね。それにしても警察、検察関係の委員の言動には驚きます。まさに、「10人の真犯人を逃すくらいなら、ひとりくらいえん罪を出しても仕方がない」というスタンスです。
国家権力は「10人の真犯人を逃すとも、ひとりの無辜を罰するなかれ」の格言を無視しています。明らかに、治安を維持するためには、あるいは捜査機関の信頼性を高めるためには、えん罪であっても被告人を処罰した方が良いんだと考えているとしか思えません。
――多くの国民に、真犯人は必ず処罰される、という強い期待があるからそうなるのではないでしょうか。以前、やはり多くの無罪判決を書いたことで知られる元裁判官の原田國男弁護士にお話を伺った際、無罪判決を出していちばん怒るのは国民だとおっしゃっていました。
そうかもしれないですね。無罪なら「真犯人は誰なんだ」と怒るでしょう。おそらく多くの人は、「何も悪いことをしていない人が、警察に捕まるわけがない」と思っています。自分は何も悪いことをしていない。そんな自分がえん罪に巻き込まれるわけがない。万が一無実の罪で捕まっても、裁判は公正に行われていると思っているから、無罪になると信じている。でも現実は違います。痴漢事件がいい例です。えん罪は私たちが思っている以上に多いと思います。
結果はほぼ敗北と言われても仕方がない面がある
――審議会の検討テーマは9項目でしたが、今回の著書では特に中核となる3つのテーマに関する議論に絞って、議論の推移を詳細に語っておられます。
結果はほぼ敗北だと言われても仕方がない面があると思っています。取り調べの可視化は全事件、全課程の録音・録画を目指しましたが、裁判員裁判対象事件と検察独自捜査案件のみになりましたし、証拠の開示は全事件での事前全面一括開示を目指しましたが、公判前整理手続き対象の事件に限り証拠のリスト開示が認められただけで、捜査関係者が被疑者のアリバイ捜査で、現場で聞き込みをして得られた捜査報告書も対象外。そもそも再審事件も対象外です。あまりにも安易に勾留が行われているので、その現状を打開するための規定設置も目指しましたが、安易な勾留など行われていないという捜査関係者と裁判所の主張を事務局が汲んだ結果、裁量保釈(起訴後の保釈)の判断に当たっての考慮事情を明記するだけになりました。
――ただ、起訴前の被疑者の段階から国選弁護人を付けられる規定は、従来は懲役刑と禁固刑の対象事件だけでしたが、全ての事件に拡大されました。
それは日弁連の今までの努力の成果です。ただし全事件と言っても身柄拘束される事件が対象ですので、さらに実績を重ねて、全ての事件で弁護人が付くようにしてほしいです。
――米国の刑事ドラマを見ていると、必ず弁護士が取り調べに同席していますよね。
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