キヤノンの「トップ技術者」はセンサー開発の35歳 「超高感度SPADセンサー」誕生の経緯は?

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──森本さんはキヤノンの留学制度を使ってスイスに留学されたそうですね。

技術者海外留学制度を使って2017年から2年ほどスイスに留学し、SPADの世界的権威の先生のもとで研究をしました。その間平行して、国内ではチームのメンバーが研究を進めてくれていました。

SPADの電気信号を処理するための回路の技術がキヤノンにはまだないので、その技術を勉強して持ち帰る。そうすれば、キヤノン独自の画素の技術と世界最先端の回路の技術を組み合わせた製品ができる、と再び社内を説得し、留学が認められました。

キヤノン森本氏
もりもと・かずひろ 1988年生まれ。東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修士課程修了後、2013年にキヤノン入社。2023年トップ・サイエンティストに選出される(撮影:尾形文繁)

現地ではSPADに適した回路の設計思想をいちばん学びました。SPADでは電気信号が増幅される時、瞬間的に電流が増えます。これをうまく制御しないと期待通りの性能が出ません。

電気信号を好き勝手に増幅させるとものすごく大きな電流が発生し、消費電力が増えてしまう。とくに画素数を増やした場合、すべての画素で信号の増幅が起こり、とてつもなく大きな電流になる。そうすると発熱も起こり、イメージセンサーとして使い物になりません。

業界のスタンダードになりつつある

増幅する電気信号を制御しながら、しっかりと精度よく光の粒をとらえる、という大きな設計思想を学んで帰り、キヤノン独自の回路に昇華して製品化することができました。

SPADでは他社が論文などで採用していない方式を真っ先にキヤノンが採用し、それが業界のスタンダードになりつつあります。キヤノンは世界の中でも進んだことをやっていると思います。

──超高感度カメラとその肝となるSPADセンサーの開発は、社内制度や社風がうまく生きた事例ですね。

私が学生だった頃、キヤノンの人事の方から「キヤノンでは、自ら手を挙げる人にチャンスを与える。そういう会社だ」と言われました。

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