「伝説の農家」の極上野菜、3つ星シェフ食べた感想 79歳「浅野悦男」の野菜は、一体"何が違う"のか
ナスは、猛暑日が続くなどして水分が不足すると、いわゆる「ボケナス」になるが、地温が高いときに大量に水をやると病害虫のもとになる。
だから、浅野はときに日没後、夜遅くまでかけて土に少しずつ水を吸わせるようにして灌水する。
植物の特性や自然の摂理に合わせた独自の管理は、農場の随所にみられる。それが、芯は強いけれど繊細で、滋味深い野菜を生み出す素になっていることは間違いない。
「土づくり? できるわけないじゃん」
「ミシュランガイド東京」において3年連続で3つ星を獲得しているフレンチレストラン「レフェルヴェソンス」のエグゼクティブシェフ・生江史伸氏は、2010年の開店以来ずっと使っている浅野の野菜をこう表現する。
「すごく色つやがいいし、形もしっかりしているし、持った感じもガシッとしている。ごつごつした感じのおじさんだから、味もガーンとインパクトが強くて、吹っ飛ぶような威力がある野菜をイメージする人もいるかもしれないですけど、食べるとね、いつも優しいんですよ。浅野さんの性格を含めて、ぼくは浅野さんの野菜に惹かれるんです。人の勝手なエゴが入っていなくて、優しい父親に育てられた可愛い娘たち、というようなイメージがありますね」
自身の料理に必要なものを真摯に求める料理人たちによって、いつの時代も浅野は見出され続ける。
最初に光を当てたのは、1980年代に「バスタ・パスタ」の総料理長を務め、1990年代にかけて一大イタリアンブームを牽引した山田宏巳シェフだ。のちに名店と評されることになる「リストランテ・ヒロ」を開店した直後に、浅野と巡り合った。
「ニンジンが苦手だ」と言うシェフを、浅野はあえて畑に案内した。率直な意見が聞きたい。ただそれだけだった。
その場で一口かじって、シェフは目を輝かせた。
「おれ、このニンジン食べれる!」
そこから取引は一気に広がり、多くのシェフが浅野の野菜を求めた。30年近く経ったいまも、若手シェフから新規のオファーがしばしば届く。
ニンジンにありがちな青臭さがほとんどなく、芯まで赤くて甘みが強いと評判の浅野のニンジン。意外なことに、肥料はほぼゼロで育つのだという。
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