「伝説の農家」の極上野菜、3つ星シェフ食べた感想 79歳「浅野悦男」の野菜は、一体"何が違う"のか
たとえば大根とカブの畑には、大きさも、形も、色も違うものが時期によっては10品種以上育っている。赤、白、黄、緑、朱色。真っ黒なものもある。
それぞれの品種に、贔屓のシェフがいるのだ。それにしても、なぜこれほどの数が必要なのか。「皿の上のことを考えたら、こうなるよ」と浅野は答える。
「生、煮る、蒸す、焼く。調理法によって、適した品種が全部違うからね」
「普通」や「当たり前」が、どこにもない
春先に農場を訪れたときのことだ。浅野は、通路の脇でおとなしそうに咲いている小さな黄色い花を摘み取ってくれた。
口に入れた瞬間、直径3mmにも満たない花弁1枚1枚から放たれる野性味あふれる香りと辛みが、鼻腔をすうっと抜けていく。ルッコラの野生種、セルバチコだ。農家の多くが葉っぱだけを出荷するなか、浅野はこの花も商品として出している。
「花を食材として最初に提案したときは、『え、食べるの?!』と驚いたシェフが多かったね」
近年は、多くの店が料理の彩りに花を使うようになったが、浅野は15年ほど前から、ハーブや野菜の花も含めて食用になる花を吟味し、商品化を進めてきた。
夏の盛りには、トウガラシ類やナスの畑に、たわわに実がなる。浅野はまるでオーダーメイドのように、店ごとに希望するサイズの実を収穫していく。人差し指くらいのサイズで採るナスもある。
幼果をかじってみると、これは本当にナスなのかと疑うほどの甘みと、果物を食べたときのようなみずみずしい食感が口中を満たした。
「サイズが小さいと未熟なのではないか」という先入観は、見事に払拭される。無理なく育てられた野菜は、どの生長過程で、どの部位を収穫しようとも、本来持っている味を発揮する。
浅野の農場には、「これが普通」とか、「当たり前」というものはいっさいないのだ。
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