白い恋人に似てる?「白い針葉樹」作る会社の挑戦 摘果リンゴ使ったお菓子「りんご乙女」も販売
20軒以上あった飯田の農家の中で、“ファーストペンギン“となったのは、北沢農園の北沢章さん。JAみなみ信州で農業指導員として働く傍ら、実家はリンゴ農家を営んでいた。
「まさか摘果リンゴが活用できるなんて思ってもみない提案でした。しかもかなりの量が必要だという。リンゴ農家は秋にならないと1年分の売上が入らない。捨てるものがお金になれば、画期的な取り組みになる。ぜひやってみたいと思いました」と北沢さんは振り返る。
自身の果樹園を実験場にし、栽培方法の見直しを単独で引き受けた。工程の安全性を確かめながら防除基準をクリアさせ、徐々に賛同する農家を増やしていった。今では飯田地域を含む約50軒のリンゴ農家から、摘果リンゴを買い取る体制が整えられている。
注目すべきは、その買取価格だ。ジャムやジュースなどの加工用に使われるリンゴは1キロあたり20〜30円程度の相場で取引されるのに対し、マツザワは摘果リンゴを1キロあたり60円で購入している。しかも2023年からは資材高騰などを考慮し70円に引き上げ、昨年1年間で60トン超、425万円分を買い上げた。
かつて先代の父が山ごぼう漬けの端を集め土産品として命を吹き込んだのと同じように、松澤社長もまた、捨てられていた地域の素材を“財産”に変えた。
発売から今年で29年。「りんご乙女」は食品のミシュランガイドと称される欧州の国際味覚審査機構(iTQi)で16年連続三つ星を獲得する快挙を達成している。近年はアジアの観光客からも人気を集め、コロナ前の最盛期には1日最大6万枚を生産するほど、名実ともに産地を代表するロングセラーの土産品として成長した。
リンゴ生産農家を台風被害が襲う
北沢さんが、生産農家としてマツザワの存在の大きさに圧倒されたもう1つの忘れられない出来事がある。2022年9月、長野地方を襲った猛烈な台風14号が、収穫を間近に控えた北沢さんの農園の果樹400本をなぎ倒したのだ。実りが不十分で傷が多く、青果でも加工用でも売り物にはならない。愕然としながらも真っ先に頭に浮かんだのは、マツザワだった。
窮状を知って駆けつけたマツザワの取締役である田中久雄さんと森本康雄さんは、こう約束した。
「摘果リンゴと同じ条件で買い取らせていただきます」
落ちたリンゴは全部で6トンもの量に上った。買い取ったリンゴはそれからまもなく、新商品「りんごスティックパイ果の山」となって、各地の土産売り場を飾った。
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