また、育休中も会社とつながることができるので、疎外感を味わうこともない。年に1度開催される全社集会については個別に案内を出しているほか、「個々の事情もあり子どもを連れてくるのはハードルが高いので、託児やベビーシッター補助など、会社としてサポートできることはないか検討中」(Human Capital Support担当の三枝明代氏)という。
しかし、「仕事が好きな女性が多い」(広報の太田更紗氏)からか、制度をフルで使いきる人はいない。妊娠中はみな法定どおりギリギリまで働く。育休中も頻繁に社内メールをチェックし、産後は子どもが0歳時に保育園に入れて復帰する人が多い。
だが、制度があるからこそどんな状況でも全員が安心して働き続けることができるのだ。実際、妊娠中に体調が悪化したり、子どもが1歳半になっても保育園に入れなかったりといった事態に陥った際、この制度に救われた女性もいる。
「子どもとの時間を大切にしたい」という価値観を犠牲にすることなく働き続けられるのも制度のおかげだ。制度を作っている間に妊娠し、利用者第1号となった奥山氏も、子どもが小学校に上がるまで時短勤務を続けた。「当時は子どもを優先したかったので制度に守られていたかった」と、制度のありがたみを実感している。制度開始から10年が経つが、出産や育児を理由に辞めた人はゼロだ。
「制度」ではなく「風土」
太田氏は、「女性がライフスタイルに合わせ働き方を選べるようになったことがいちばんの成果」と話しつつ、こう強調する。「もっと制度が整った会社は他にたくさんあるだろう。うちが働きやすい要因は、制度ではなく風土」。
同社は、もともと生産性の高い働き方の実現を目的に、裁量性の高い「フルフレックス制」の勤務体系を主流としている。時短勤務の女性が増えても社内に違和感が生じないのは、従来からタイムマネジメントを要求される働き方が当たり前となっている風土によるところも大きいだろう。フルフレックス制を活用し、育児や家事にかかわる男性も多いという。
また、手を挙げれば異動や他部門の仕事を掛け持つといったことも可能なので、あまり仕事が固定化されない流動的な組織になっている。そのため、日常的に人や仕事の調整が行われており、誰かが産休や育休で抜けてもパニックにならない。
育休明けの女性も貴重な人材と位置付けられており、育休中から囲い込んでしまう動きも盛んだとか。奥山氏も「今、お休みしている女性社員にスカウトメールを送っている」と笑う。
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