転換点を迎えたウクライナ「10年戦争」の行方 アウディーイウカ要塞の陥落が戦局にもたらす意味

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プーチンもインタビューの中で語ったが、ロシアは経済的にも軍事的にも弱い国だと西側が誤解しているという点である。

最近出版された『西欧の敗北』(La Défaite de l’Occident, Gallimard, 2024)の中で、エマヌエル・トッドも書いているが、ロシア経済は成長し、ロシアは予想を超えて強い国になっている。

ロシアは予想を超えた強国に

プーチンによると、購買力平価や自国通貨で見た場合、ロシアはGDP5 位の国(中国、アメリカ、インド、日本に次ぎ)で、ヨーロッパ最大の国だというのである。

エマニュエル・トッド氏の「西洋の敗北」(邦訳未刊)

トッドは、ロシアの経済成長の背景の指標に技術者の数の多さをあげていた。アメリカの技術者の多くが、産業ではなく金融に就職するのに対し、ロシアでは研究所や産業に就職しているという事実が、ロシアの工業力を強くしているのだという。

トッドはウクライナについても、興味ある事例をあげている。この国は3つに分かれているという。

①リヴィウ(ルヴォフ)を中心とした西側(ウルトラナショナリストで、核家族型個人主義的地域)、②キーウ(キエフ)を中心とした中央(個人主義的でもあり家族主義的でもある、アナーキーな地域)、そして③ドネツク、ハリキィウ(ハリコフ)、オデーサ(オデッサ)を持つ東と南の地域(家族主義的でウクライナに喪失感をもった地域)である。

この3地域は1991年の独立以後も1つの国民としての結束力を欠き、ある意味アナーキーなまま来ているという。国家を集中させ、統一させる力を欠いているというのだ。

こうした国家の舵取りもとても難しい。ゼレンスキー政権は早く停戦を決断し、新たな国家づくりをこの廃墟の中からしっかりと進めるべき時かも知れない。NATO諸国もロシアも、戦争ではなく平和と復興に支援をすべき時だろう。

的場 昭弘 神奈川大学 名誉教授

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まとば・あきひろ / Akihiro Matoba

1952年宮崎県生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。日本を代表するマルクス研究者。著書に『超訳「資本論」』全3巻(祥伝社新書)、『一週間de資本論』(NHK出版)、『マルクスだったらこう考える』『ネオ共産主義論』(以上光文社新書)、『未完のマルクス』(平凡社)、『マルクスに誘われて』『未来のプルードン』(以上亜紀書房)、『資本主義全史』(SB新書)。訳書にカール・マルクス『新訳 共産党宣言』(作品社)、ジャック・アタリ『世界精神マルクス』(藤原書店)、『希望と絶望の世界史』、『「19世紀」でわかる世界史講義』『資本主義がわかる「20世紀」世界史』など多数。

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