「バウムクーヘン界隈」が盛り上がっている背景 老舗ユーハイムが「博覧会」の旗振り役も

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ユーハイムでもテオを導入すれば、職人が不要になるのではないかと聞いたところ、規模が小さいので量産はできないと返された。

南アフリカへはまだ届けていないが、希望する企業・店がロイヤルティを支払う形でテオを提供。現在、全国各地の16店がテオを導入し、それぞれのレシピで約30センチのバウムクーヘンを、サイズにもよるが千数百円程度の価格で販売している。

2021年3月には、名古屋支店の移転に際し、1階をフードホール、2階をシェアオフィスなどとして提供する「バウムハウス」を開業。テオの実演販売も行っている。テオでフードテックの世界に足を踏み入れたこともあり、出遅れる日本のフードテックのスタートアップ企業を支援する試みも始めた。

バウムハウス(写真:ユーハイム提供)

実はドイツではあまり食べられていない

100周年を機にリブランディングを行い、バウムクーヘン以外のクッキーやパイなどの販売拡大にもさらに注力している。同社におけるバウムクーヘンの売り上げ比率は、2022年時点で47%に上っている。

次々と新しい事業や企画を起こす発案者は、主に河本社長だ。バウムクーヘン博覧会も河本社長の発案。バウムクーヘン博覧会やテオの開発で得た情報や技術を元に、同社の次なる可能性の模索はすでに始まっている。

バウムクーヘンの一本焼き(写真:ユーハイム提供)

実はドイツ本国では、バウムクーヘンの定義が厳密過ぎたこともあり、あまり食べられなくなってしまっている。一方、日本では行列ができる店があったり、博覧会が開かれたりと、人気が定着しているだけでなく、さらなる進化を遂げようともしている。その背景には業界をネットワーク化し、博覧会の旗振り役になっているユーハイムの存在がある。

前述の通り同社は横浜で開業し、震災で被災して神戸に移転したが、第二次世界大戦による生活苦がきっかけで、ユーハイム氏は終戦を待たずして59歳で亡くなった。過酷な時代を生き抜いた会社が掲げるのは、お菓子で世界を平和にすること。その精神が、自社の利益だけにとどまらず、業界を盛り上げる原動力かもしれない。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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