さらにもうひとつミキオさんにとって足かせになっているのが「施設を出るときは3カ月以上前までに申告すること」というルールだ。実はミキオさんはこの半年間で2度引っ越しを試みた。コツコツと引っ越し費用を貯め、自力でアパートを見つけ、入居日も決めた。生活保護利用者の不動産探しは物件も限られるため、容易ではない。ミキオさんにしてみると、施設を出たい一心だった。
しかし、いずれも施設側に報告すると、「退去はすぐには無理。違約金を払ってでも(契約を)キャンセルしてきて」と言われてしまう。不動産会社側に「3カ月先の入居の予約はできるか」と聞いたこともあるが、もちろん断られた。施設側のルールに従って退去するには、路上生活になることを覚悟して部屋を探すか、3カ月間、施設とアパートの家賃を二重に払うしかないと、ミキオさんは訴える。
少し話が戻るが、施設清掃の仕事による収入は法令違反とはいえ月2万円にはなる。こちらは手渡しなので、施設から支給される生活費と合わせると、もう少しましな食事ができるのではと思ったが、ミキオさんはこの中から引っ越し代を貯めていたのだという。しかし、転居できないのでは、その努力も報われない。
貧困ビジネス業者に対して行政の対応は?
ほかにも問題を上げるときりがない。部屋の壁紙は入居当初から破れてコンクリートがむき出しになっているし、生活音もダダ漏れ。「壁紙はいくら言っても直してくれない。壁が薄いせいか、台所の換気扇を付けただけで、(別の入居者から)すごい剣幕で『ぶっ飛ばすぞ!』『もっと気ぃ使えよ!』と怒鳴られます。僕自身、部屋が(共用の)トイレの近くなので扉の開け閉めがうるさくて眠れません」とミキオさん。節約のためにもっと自炊をしたいが、それもままならないという。
こうした実態をCWは知っているのだろうか。
ミキオさんによると、「早くここを出たほうがいい」と心配してくれるCWもいたが、業者の追及まではしてくれなかった。後任のCWは、最近も窮状を訴えたうえで「このままでは施設からいなくなるしかない」と業者への対応を求めたが、「いなくなられると困るんだよねー」と他人事のように言われておしまいだったという。
私は取材の中で、施設がある自治体の担当職員と話をする機会があった。なぜ貧困ビジネス業者を規制しないのかという質問に対し、おおむね次のような答えが返ってきた。
「施設に入ったのも、通帳を預けたのも無理やりではなく、一応ご本人の意思ですよね。われわれには業者を指導、処分するための法的な根拠がない」
私が、処分や指導までしなくても、マイナンバーカードや通帳の取り扱いなどについて不満の声を聞いていると伝えるだけで抑止力になるのではと重ねて尋ねると「うーん」と言ったきり黙ってしまった。
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