役所には業者のスタッフが同行。スタッフは窓口で自らのことを「支援者です」と告げたという。「申請はすんなり通りました」とミキオさん。このとき担当のケースワーカー(CW)から説明され、初めて生活保護制度のことを知ったという。
「元気な自分がどうして? って感じました。安心したというよりは、悪いなと思いました」
ただこのときは、早く自立すればいいとも考えた。しかし、一度陥った“蟻地獄”のような仕組みから逃れるのは想像以上に難しかった。この施設で3年間も暮らすことになるとは、ミキオさん自身も思っていなかったという。
施設を出ようと思っても出られない
ミキオさんが遭遇した業者の運営母体は株式会社。最初に驚いたのは、スタッフからマイナンバーカードと、生活保護費を振り込むための預金通帳を新たに作り、施設に預けるよう指示されたことだ。毎月保護費から家賃を差し引いた生活費を渡すのが会社のルールだと説明された。カードや通帳を預けることについての同意書は書いていないという。
預けるのは不安だと訴えると、マイナンバーカードは取り返すことができたが、通帳は「なくしてしまう人もいる」という理由で返却を拒まれた。通帳についてはその後も何度か交渉したが、そのたびに「会社が決めたルール」「従えないなら今日中に出ていってもらう」と脅し文句のようなことまで言われ、諦めるしかなかったという。
そして入居から1週間ほどが過ぎると、スタッフから施設の清掃の仕事をやらないかと声をかけられる。以来週1回、早朝5時から12時まで。シャワー室などの共用スペースも1人で掃除するので、かなりの重労働だ。賃金は日当5000円。
5~12時の7時間労働で日当5000円? 時給に換算すると714円である。東京都の最低賃金1113円を400円近く下回る。私がそう指摘すると、ミキオさんは最低賃金の仕組みを知らないという。「ニュースでなんとなく聞いたことはあったんですが……。(自分の働かされ方は)法律違反だったんですね」と驚いていた。
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