「原油価格は今後も安定」と考えるのは甘すぎる 中東情勢が緊迫化しなくても原油の下値は堅い

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現在の一連の中東情勢の不安が、ハマスとイスラエルの対立に端を発していることは間違いない。中東というと、「アラブの産油国」という画一的なイメージがあるが、イスラエルに限って言えば、多くの石油が採れるわけではない。

よって、問題がイスラエルをめぐる戦闘に限定されている間は、実際の石油需給に大きな変化が生じることもない。もちろんパレスチナ情勢は、アラブ全体を混乱に陥れる可能性を秘めた大問題だ。

それゆえハマスによる攻撃が行われた際に、他のアラブの産油国にも影響を及ぼすのではとの懸念から、原油先物に買いが集まったのも当然と言えよう。

確かに、その後は周辺国が比較的抑制的な態度を取ったこともあって混乱が拡大せず、石油供給にも今のところは大きな問題が生じていない。そのため、前出のように石油市場全体需給の弱さのほうがより大きく材料視され、軟調な相場展開が続いている。しかし、やはりフーシ派による紅海で船舶への無差別攻撃はなお続いており、流れが変わる可能性は決して低くない。

イランの動向が、大きなカギを握る

フーシ派による無差別攻撃は、ハマスとイスラエルの戦闘に対して、初めて当事者以外が何らかの行動を起こした事例と言える。これでイスラエルだけでなく、同国以外に紛争のリスクが拡大したという点で、意味は決して小さくない。

もちろん、フーシ派は国家ではない。だが、背後にイランの支援があることを忘れてはならない。ここへきてアメリカは、英国と共同でフーシ派に対する軍事作戦を開始している。

もしアメリカを中心とした勢力がフーシ派の拠点を本格的に攻撃すれば、イランがそれを黙って見過ごすとは考えられない。もちろんイランにとっても、アメリカやイスラエルと直接的に対峙することは、かなりリスクの高い行動だ。

しかしながら、イスラム教シーア派の同胞でもあるフーシ派がアメリカなどの攻撃を受けているにもかかわらず、イラン政府が何も行動を起こさないでいるなら、「アメリカ憎し」という感情を持つ国民からの批判が強まるのは避けられない。

そうした批判をかわすためにも、今後は行動に打って出る可能性は高いと見る。実際イランは年明け早々から、紅海に軍艦を派遣する意向を示した。アメリカはイランとの戦争は望まないとしているが、将来的にイランとアメリカの軍艦が紅海上で対峙、双方が戦火を交えることがあっても不思議ではないと見ておくべきだろう。

現在、すでに多くの船舶が紅海からスエズ運河を通るルートを避け、南アフリカ経由という迂回ルートに変更しており、物流コストの大幅な上昇が懸念されている。石油輸出に関しても、サウジアラビア西部の輸出港やエジプトからの出荷に影響が出る可能性は高い。早期に問題が解決に向かわない限り、供給不安が強まる懸念がある。

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