あおぞら銀を追い込んだ「米国不動産」の底なし沼 15年ぶりの赤字転落、後手に回った債権処理

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買い手不在の米国オフィス市場では取引事例が少なく、周辺相場の推定が困難だった。そこであおぞら銀は独自に価格を算定し、引き当ての有無を判断していた。その後、周辺で成約事例が現れた場合には物件価格を修正する。

再評価した際に物件価格が融資額を下回れば、当初問題ないと判断した案件でも、引当金の計上を迫られる。あおぞら銀にとって想定外だったのは、周辺相場が当初の見込みを大きく下回り、引き当てに追われる物件が日を追うごとに増加したことだ。2023年4~9月期では新たに124億円を引き当てた。

膨らむ引当金とは対照的に、あおぞら銀から発せられるメッセージは楽観的だった。谷川社長は2023年11月の決算説明会でも「相当厚く積んだ。追加の引き当ては、ほぼないのでは」と明言していた。

だが、そこからわずか3カ月後の2月1日に、3度目の引き当てとなる324億円もの引当金が発表された。谷川社長も「今後も個別案件ごとに若干の損失があるかもしれない」と、発言のニュアンスが変化。米国オフィスをめぐる引き当てが本当に底を打ったのか、投資家の疑念は晴れない。

引責辞任との見方を打ち消す

あおぞら銀は業績予想の下方修正と同時に、社長交代も発表した。4月1日付で大見秀人副社長が社長に昇格し、谷川社長は6月の株主総会で取締役を退任する。「後継者計画は1、2年前から進めており、ちょうどこのタイミングになった」(谷川社長)とし、業績悪化に伴う引責辞任という見方は打ち消した。

谷川啓社長(左)と、4月から社長に就任する大見秀人副社長(記者撮影)

有価証券と米国オフィスという懸案がくすぶる中、大見新社長にとっては荒波での船出となりそうだ。「メガバンクほどの規模はなく、地域金融機関のような強固な営業地盤は(あおぞら銀には)ない。存在感を示すために、あおぞら型投資銀行ビジネスを磨いていく」。大見新社長は就任の抱負をこう述べた。

今回の赤字計上により、あおぞら銀の自己資本比率(普通株式Tier1比率)は6.6%に低下する見通しだ。同行が目標とする7%を下回り、リスクテイクには慎重にならざるを得ない。赤字転落を契機に、リスクの取り方が適切だったかの検証が急務だ。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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