中国人向けの書店が東京で続々開業する深い事情 言論統制を嫌うインテリが日本に脱出している

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「単向街書店」を運営する許知遠氏は中国を代表する知識人。故・坂本龍一氏とも交流があった(写真:単向街書店)

許氏らは、2023年8月に東京・銀座に初の海外店をオープンした。独立書店とは大手チェーンに属さない特色のある書店で、オーナーの独自色が打ち出されている。

ここでは、主に中国で出版された書籍を扱い、日本語や英語の本も販売している。日本人が普通イメージする個人書店とは違って、外見や内装はとにかくオシャレ。エントランスの縦に長い自動ドアと螺旋階段、そして吹き抜けが開放感を演出する。

カフェ機能も備えるほか、2階では思想家や作家を呼んで毎週のようにイベントが開かれている。中国でよくみられる独立書店そのものだ。最近は、書籍購入やイベントの際に割引が受けられる会員制も導入した。

店内でインタビューに応じた許さんに問うてみた。「どうしてあなたを含めた中国人知識人はこんなにも日本に注目するんですか?」。

「今でも日本が鏡だからです」と許さんは回答する。「清朝末期、日本は大国でした。(当時、ロシアに戦争で勝利するなど)日本は西洋にインパクトを与えました。日中両国には似たところも似てないところもあります。さらに20世紀には日中間で大きな戦争も起きました」。

日本の近代は避けて通れない

中国の問題を考えるとき、日本の近代は避けて通れない、というのが中国人知識人の共通認識だ。

日本にやってきた中国人知識人はどのような暮らしをしているのか? 多くは目立たないように過ごしている。親戚がまだ中国にいる、もしくは本人がまだ時々中国に帰国するような場合は、より一層慎重な言動に努めている。

去年から都内のURで暮らし始めたばかりのある中国人ジャーナリストは「東京に来た知識人には、靖国神社を訪ねる人が多いです」と明かす。靖国神社は中国では徹底的に否定されている存在なので、実際にどんなところなのか見てみたいとの好奇心がわくのだそうだ。

前出の張氏は、先日、江戸末期にアメリカに開港を迫られた静岡県下田市まで車で行ったと話していた。こちらは、中国の近代化がなぜ日本の明治維新のようにスムーズに行かなかったのかという疑問から出発している。

単向街書店銀座店について、許氏は文化交流の場になってほしいと言う。日中だけでなく、韓国やタイ、フィリピンなどを含めた「アジアの書店」にする目標を掲げる。「政治ももちろん非常に重要ですが、表面的でもあります。文化は非常に深くて、長期的に影響を及ぼします」。

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