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ストイックでプロフェッショナルな山崎さん、安らかに

と、ここまで書いて原稿を編集部に送付した後で、当欄のメンバー、山崎元氏の訃報に接した。元日に逝去されていたとのこと。昨年秋のジャパンカップの日(11月28日)、オバゼキ先生と編集F氏とともに山崎氏宅を訪れて、一緒に競馬と将棋を楽しんだことが夢のようである。

2012年秋に当連載が始まってから10年以上、2023年最後の週が山崎さんの当番で、初めて原稿が「落ちた」。ああ、よっぽど体調が悪いのだなと思ったけれども、まさかお別れがこんなに早いとは。しかも故・ぐっちー(山口正洋)さんと同じ食道がんが原因とは。残された者としては、まったく困るではないか。

古い読者はご存じと思うが、この連載はもともと山崎さん、ぐっちーさん、不肖かんべえの3人で始まった。

競馬予想に関しては、山崎さんが正統理論派、ぐっちーさんが豪放磊落派で、ぐっちーさんの後を継いだオバゼキ先生は、これまた長い競馬キャリアに基づく独自の世界観を構築されているので、筆者としてはなるべくミーハー路線で予想を書いてきたつもりである。競馬ファンの多数派はきっとそうだからね。山崎さんとぐっちーさん、今頃はあの世で仲良く競馬談義をしているかもしれない。

山崎さんの筆致は、がんが発覚した後も、闘病中も、退院後も、転移が発覚した後もほとんど変わらなかった。ストイックでプロフェッショナルであった。それでも最後の何本かは、絞り出すように何かを伝えようとしていて、まるで「遺言」のように感じられたものだ。

当欄で絶筆となったのは、「『そこそこの会社で正社員』はやめたほうがいい」(2023年12月9日配信) 。なるべく多くの人に読まれてほしい。合掌。

小幡績・慶應義塾大学大学院教授より

山崎さんは、僕にとっては不思議な人だった。

真面目に言っているのか冗談なのか、わからないことが多かったし、僕が酒を飲まないこともあって、彼が酔っているのかいないのか、いつもわからなかった。

経歴も、もともとはエリート街道王道だし、東大将棋部だし、ルックスも知性派の王道イケメンだったし、だが、しかし、転職大王となり、最近の対談記事を読むと、子供のときから先生を困らせていたらしいことがわかった。

連載記事をお読みの皆さんには既知のことだが、私とは、財政政策、金融政策、株価の見通し、投資のススメ、何から何まで、正反対だった。ある公的年金の運用委員会では、朝3時に起床する私と、朝6時すぎに就寝する山崎さんとのスケジュール調整で、委員会を午前にするか夕方にするかいつも困っていた。

しかし、何かが共通していた。それは競馬好きだったり、将棋好きだったり(棋力は遠く及ばないが)、なんだろう、と思っていた。

あるとき、初めて、将棋盤を挟んで、お手合わせをしていただいた。そのとき、驚いたのは、半ば指導対局のようなものなのに、山崎さんの指し手は、慎重に次ぐ慎重であったことだ。こちらは1手ごとに追い詰められ、もう勝負、勝負で開き直った指し手を続けなければならなかったのに、山崎さんはあくまで慎重に最善手を検討されていた。

山崎さんは、なんと真面目で、真摯で、常に全力なのか。そのとき、やっと僕は気づいた。しかし、少し遅すぎた。もっと、もっと、お話もしたかったし、将棋もご指導いただきたかった。このコラムで180度違う意見をぶつけ合いたかった。本当に残念です。

【2024年1月5日編集部追記】2024年1月1日、山崎元さんは逝去されました。心から哀悼の意を捧げ、ご冥福をお祈りします。

(本記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

かんべえ(吉崎 達彦) 双日総合研究所チーフエコノミスト

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Kanbee

吉崎達彦/1960年富山県生まれ。双日総合研究所チーフエコノミスト。かんべえの名前で親しまれるエコノミストで、米国などを中心とする国際問題研究家でもある。一橋大学卒業後、日商岩井入社。米国ブルッキングス研究所客員研究員や、経済同友会代表幹事秘書・調査役などを経て2004年から現職。日銀第28代総裁の速水優氏の懐刀だったことは知る人ぞ知る事実。エコノミストとして活躍するかたわら、テレビ、ラジオのコメンテーターとしてわかりやすい解説には定評がある。また同氏のブログ「溜池通信」は連載500回を超え、米国や国際政治ウォッチャー、株式ストラテジストなども注目する人気サイト。著書に『溜池通信 いかにもこれが経済』(日本経済新聞出版社)、『アメリカの論理』(新潮新書)など多数。競馬での馬券戦略は、大枚をはたかず、本命から中穴を狙うのが基本。的中率はなかなかのもの。

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