「テスラ」にはあって日本企業に欠けているもの なぜ日本は世界からこんなに遅れてしまったか

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合田圭介(セレンディピティ:幸運な偶然を可能にする技術を研究):その時に国がシリコンバレーを真似しようとするのは、ちょっとおかしい。そもそも、なぜシリコンバレーにIT関連企業が集中してイノベーションができたかというと、アメリカの中でも首都ワシントンD.C.から一番離れたところにあったからなんです。

トップ大学が首都にあるのはめずらしい

暦本純一(人間の能力拡張を研究、以下暦本:それで言うと、東京大学は日本の政府機関がある東京にありますが、世界的に見ると、政府の近くにある大学がその国トップの大学であるというのは珍しいことなんです。

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例えばワシントンにある大学は、一般的な大学とちょっと違ったタイプの大学。スタンフォード大学は首都からかなり離れていますし、ハーバード大学も、イギリスのケンブリッジ大学も、田舎みたいな場所にあります。ですから、イノベーションをする人は政府の人たちと基本的に感覚が違っていて「政府に関係なく勝手にやりますよ」という気持ちでいると思います。

ところで、松尾先生にちょっとお聞きしたいんですが「r」は「選択と集中」に関係してくるんでしょうか。マスクがやっていることはすごくサイクルが早いんですけど、言い方を変えると「究極の選択と集中」をやっているように見えます。

松尾:そうですね。サイクルが速いというのは「ニーズの探索」「インプルーブメント(改善)」「顧客に対するパーソナライゼーション(最適化)」などの活動が同時に起きているということだと思います。その結果として選択と集中ができているのではないでしょうか。

暦本:たぶん、最初にプローブ(調査)みたいなことをしてから実行に移す。だから選択できる余地がある。けれども今の日本は、いきなり「このへんだろう」とか「アメリカがこのへんをやっているからやろう」みたいなことでやっているんですかね。

松尾 豊 東京大学教授

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まつおゆたか / Yutaka Matsuo

1975年香川県生まれ。1997年に東京大学工学部電子情報工学科卒業。東京大学大学院工学系研究科電子情報工学専攻博士課程修了。独立行政法人産業技術総合研究所研究員、スタンフォード大学CSLI客員研究員を経て、2019年から東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター教授。2017年、日本ディープラーニング協会理事長。2019年、ソフトバンクグループ株式会社取締役(社外)。2021年、新しい資本主義実現会議有識者構成員。2023年、AI戦略会議座長。人工知能研究の第一人者であり、ビジネス界においても注目されている。著書に『人工知能は人間を超えるか︱ディープラーニングの先にあるもの』(KADOKAWA)など。

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暦本 純一 東京大学大学院情報学環教授、ソニーコンピュータサイエンス研究所フェロー・副所長

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れきもと じゅんいち / Junichi Rekimoto

博士(理学)。ヒューマンコンピュータインタラクション、特に実世界指向インタフェース、拡張現実感、テクノロジーによる人間の拡張に興味を持つ。世界初のモバイルARシステムNaviCamや世界初のマーカー型ARシステムCyberCode、マルチタッチシステムSmartSkinの発明者。人間の能力がネットワークを介し結合し拡張していくIoA(Internet of Abilities)を提唱。1986年東京工業大学理学部情報科学科修士課程修了。 日本電気、アルバータ大学を経て、94年よりソニーコンピュータサイエンス研究所勤務。2007年東京大学大学院情報学環教授。放送大学・多摩美術大学客員教授。電通ISIDスポーツ&ライフテクノロジーラボシニアリサーチフェロー。

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瀧口 友里奈 経済キャスター

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たきぐちゆりな / Yurina Takiguchi

1987年神奈川県生まれ。東京大学文学部社会学専修卒業。SBI新生銀行社外取締役。在学中にセント・フォースに所属して以来、『100分de名著』(NHKEテレ)、『ニュースモーニングサテライト』(テレビ東京)、『CNNサタデーナイト』、経済専門チャンネル『日経CNBC』等の司会やキャスター。また、日米欧・三極委員会日本代表を務めるほか、2021年より東京大学工学部 アドバイザリーボードを務める。また、東京大学公共政策大学院の修士課程に在学中。2023年「東大教授が語り合う10の未来予測」発刊

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