できる社員の健康管理術 亀田高志著

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できる社員の健康管理術 亀田高志著

閉塞感漂う現代社会を生き抜くのは、容易ではない。我々が行っているリフレッシュ方法は本当に明日への活力を生み出しているだろうか。

「今朝、目覚めたときに元気だと感じられたか? 今日、あなたはやる気に満ちているか?」

これは、著者が毎年100回前後行っている研修や講演の冒頭で、必ず投げかける質問である。手が挙がるのはいつも1人か2人、誰も手が挙がらずに苦笑を浮かべることも少なくないという。

多くのビジネスパーソンは、最も活力にあふれた時間帯であるべき「朝」を、ぐったりとした状態で迎えている。頑張っているのに疲れ続けるという「負のスパイラル」に陥っているのだ。

こうした状態を抜け出だそうと、残業したあとに深酒をしながらグチり、翌朝にはまた疲れを引きずって起床する。まるで、底なし沼にはまっているようだ。

産業医として、職場のメンタルヘルス対策に取り組んできた著者が、一貫して「生産性を上げる」ためのハウツーを軸に展開する本書は、図版とイラスト入りで解説されていて読みやすい。

第1章「ビジネスパーソンはなぜ、元気がないのか?」にケーススタディとして登場する「Kさん」の仕事の進め方、週末の過ごし方には、わが身を重ねる読者も多いはずだ。連日の長時間労働で心身ともに疲弊して帰宅するKさんの業績(アウトプット)は、決して高くない。

第2章「悪い習慣を変える」では、「睡眠不足」「飲酒習慣」「運動不足」「食習慣」の4つの側面から、不健康なビジネスパーソンに警鐘を鳴らしている。飲酒後はうつ状態になるという指摘から「忙しいときほど、アルコールを遠ざけろ」という提言や、負債(起きている時間)と返済(眠っている時間)で説明される睡眠サイクルの問題は、論理的で気づかされる部分が多い。過去の習慣を絶ち切り、新たな習慣を身に付けるのには相当な努力と強固な意志を要するが、明るい未来はその先にしかないのだ。

本書でいう「健康」とは、何も身体的なものだけではない。第3章では「ストレス対処術」として、感情のコントロールにも言及している。ストレスは、ただ遠ざけるだけでは必ずしも良いとはいえない。適度なストレスは能力を伸ばし、成果を上げるのに必要な刺激なのだ。

第4章「生産性をさらに向上させる考え方」では、「業績が上がるのも大切なことだが、生身のあなたが、元気だ、活力があるぞと感じ続けられることが何よりの成果だ」と締めくくっている。

すべてがシステマチックに構築され、機械的な動きが求められる時代だが、人間は本来「動物」であり、「生身の生き物」である。ビジネスパーソンに向けた本だが、「できる社員」にとどまらず、「できる人間」になるための金言にあふれた一冊と言える。

(フリーライター:小島知之=東洋経済HRオンライン)

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