「バス運転士不足で鉄道が重要に」有識者が指摘 北海道新幹線「並行在来線」廃止は再検討が必要

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――日本の鉄道では「ご利用の状況に基づいての減便」という話しか聞かれませんが、地方鉄道の乗客増を図るためには「潜在需要の掘り起こし」が重要ということですね

潜在需要の掘り起こしについてはオーストリアで提示されている考え方が参考になります。オーストリアは、日本の北海道とほぼ同じ面積に約860万人が暮らし、北海道の人口よりは多いとはいえ、人口密度は島根県並みの国です。そこで提示されているのは、輸送密度が、1500人であれば「極めて高い」、500人でも「中程度」と評価されており、2000人をローカル鉄道の見直し基準とした日本のJRグループとは大きく考え方が異なっています。

ただし、オーストリアの鉄道も輸送密度500~750人の路線に対しては、さらなる潜在需要の獲得を促しており、500人を下回る路線については、「不定期の利用、観光利用を確認する」基準というコメントがあります。鉄道の価値を評価する際に、潜在需要をどう獲得するのかという視点で見ている点が日本とは大きく異なります。

鉄道を「地域を変えるツール」に

――地方都市圏であればそれなりに沿線人口がありますが、鉄道のサービスを改善することで、利用者は増えるのでしょうか。自家用車から鉄道に切り替える人は、住民10人に1人もいないという話を聞きます。

日本の地方圏の場合、パーソントリップ調査で交通手段分担率の調査を行うと、公共交通は鉄道とバスを合わせても5%未満のところが多く、一方で、自家用車での移動は7割を超えます。もし、公共交通が5%、自家用車70%という状況から、自家用車の利用者10人のうち1人が自家用車から公共交通に転換すれば、7%の人が公共交通の利用者になります。その結果、公共交通の利用者は12%、2.4倍となるのです。もっと転換する人が少なくても、2倍程度になり、非常に大きな効果がある。実際に2倍になったら、乗り切れないケースも出てくるかもしれません。ただし、それで収支が黒字になるとはいえないでしょう。

――鉄道事業の単体の採算ではなく、自家用車に過度に依存した地域を変えるツールとしているわけですね。

日本は商業輸送を基本としていますが、近年では、鉄道を単純な事業の収支ではなく、鉄道があることによってもたらされる社会への効果を総合的に評価する動きが広まりつつあります。滋賀県の近江鉄道のケースでは、鉄道を廃止した場合に必要となる多様な行政部門の施策の費用を算出することで、近江鉄道を存続させるほうがバス転換よりも、全体でみた支出が少ないという判断になりました。公共交通が影響を与える施策は「商業」や「観光」だけではなく、「医療」や「福祉」など多岐にわたり、このような横断的な効果は「クロスセクター効果」と呼ばれています。

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