リニア「水資源」保全問題で宙に浮く田代ダム案 生態系という難癖を突き付けた静岡・川勝知事

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28日の会見の後段で、川勝知事は「静岡県側の県境付近には大量の湧き水を含む破砕帯がある。静岡県内の高速長尺先進ボーリングは、大井川中下流域の水資源への影響だけでなく、上流域の生態系への影響も懸念される。県境を越えた静岡県内の高速長尺先進ボーリングの実施は、それらの影響を回避、低減するための具体的な保全措置が示された後でなければ認められない」と、事務方が用意した文書をそのまま読み上げた。

高速長尺先進ボーリングとは、南アルプスの断層帯の続く県境付近の地質や湧き水の状況を把握したうえで、トンネル掘削を行う前段の調査ボーリングを指す。山梨県内でJR東海は調査ボーリングを実施している。

県専門部会の強引な会議運営に批判が続出した森下部会長(静岡県庁、撮影:小林一哉)

森下部会長の「山梨県の調査ボーリングで静岡県の地下水がどんどん抜けてしまう」などの意見に従い、川勝知事は2022年10月から「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」を強硬に主張している。

しかし、県専門部会の他の委員は「大量湧水に至ることはなく、コントロールできる」「地質を調べ、断層がどこから始まるのか、どんな対策が必要かなどのいろいろな機能があり、工学的科学的に必要」などと森下部会長とは意見を異にしている。

「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」に続いて、川勝知事は「上流域の生態系への影響への保全措置が示されなければ、静岡県内の調査ボーリングを認めない」を”田代ダム案容認”と同時に宣言したのである。

ただ、田代ダム案での生態系への保全措置には、首をかしげるしかない。

生態系への保全措置まで新たに要求

田代ダム案は、南アルプスの断層帯に向かって山梨県側から上り勾配で掘削するから、濁水は山梨県へ流出してしまう。当然、静岡県の生態系への影響は、科学的にはまったくない。山梨県側も生態系への影響など、懸念していない。

また取水抑制で流れる水は、大井川にそのまま放流されるから、水質に変化などはない。県境付近の掘削は地下約1000メートル前後で行われるから、地上の植物等への影響も考えられない。

つまり、田代ダム案による生態系への影響云々は、川勝知事の頭の中で思いついたデタラメでしかないのだ。

何ともわけのわからない生態系への保全措置を盾に、トンネル掘削の前段となる調査ボーリングさえ現状では認めないと、川勝知事は田代ダム案を骨抜きにしてしまった。

利水協議会による「水資源保全の解決」合意を棚上げにしたうえで、県専門部会での議論を続ける。と同時に、川勝知事の求めた「生態系への影響への保全措置」という不思議な難題も、解決しなければならなくなった。

「水資源保全の解決」は大井川利水関係協議会に委ねられるが、その他の自然環境保全などは、県とJR東海との合意事項である。どのような無茶な要求でも、工事の許可権者である県から懸念を示されれば、事業者のJR東海はその対応を迫られる。

「田代ダム案」合意寸前で、またまた川勝知事が新たな難癖で待ったをかけたのである。このままではいつまでたってもリニア問題は解決しないだろう。

小林 一哉 ジャーナリスト

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こばやし・かずや / Kazuya Kobayashi

1954年静岡県生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、静岡新聞社入社。2008年退社し独立。著書に『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)等。

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