リニア「水資源」保全問題で宙に浮く田代ダム案 生態系という難癖を突き付けた静岡・川勝知事

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ところが、川勝知事は「静岡県の水は一滴も県外に流出させない」「湧水全量戻しができなければ、工事の中止が約束だ」と、JR東海を脅した。

このためJR東海は2022年4月、東京電力グループの東京電力リニューアブルパワー(RP)に田代ダムの取水抑制をしてもらい、最大500万立方メートルの水を静岡県内に戻す、「田代ダム案」を提案した。

水資源保全の解決のカギを握る田代ダムの取水口(静岡市、撮影:小林一哉)

川勝知事による河川法違反の疑いを持ち出した妨害が続く中、JR東海は東電RPとの詰めの協議に入り、今年9月末から、田代ダム案の具体的な実施策を流域市町など利水関係者へ説明して大筋の了解を得た。この結果、10月25日に大井川利水関係協議会(利水協議会)を開催し、正式に利水者の合意を得る手続きを進めるよう、静岡県に要請したのである。

染谷絹代・島田市長らは「利水協議会として田代ダム案に合意する。これで水資源保全の問題は解決の方向が見えた」などと期待を寄せた。

ただ、流域市町は利水協議会の開催を求めたものの、県は各利水者へ書面による確認で済ませてしまった。市町長らが一堂に会した会議となれば、県の思惑に沿った結論を導き出すことができなくなると考えたのだろう。

続きは「県専門部会とJR東海との対話で」

利水者から書面による田代ダム案の了解が出そろったところで、川勝知事は11月28日の会見で、「実現性を技術面から確認するため、引き続き、県専門部会でJR東海との対話を進めていくという姿勢で、スキームとして妥当であるとの(森下祐一・県地質構造・水資源専門部会長の)意見を尊重したい」と何ともわかりにくい表現で、県専門部会で不確定部分を議論することを前提にして、田代ダム案を容認する姿勢を示したのである。

それに先立つ11月20日付では、県専門部会の森下部会長から、「スキームとして妥当だが、5項目の協議が必要」とする意見書が静岡県に提出されたが、利水者にはまったく知らされていなかった。同意見書は11月29日にJR東海へ送った文書で明らかにされた。

つまり、この意見書を根拠に、県専門部会での説明をJR東海に求めたのだ。

その県専門部会は今年8月3日以降、開催されていない。5項目の協議事項は、森下部会長の”個人的な意見”で、県専門部会の機関決定ではない。

11月9日の会見で、記者から「(田代ダム案を)県専門部会にかけることを想定するのか」と尋ねられると、川勝知事は「県専門部会でおおむね了承されている、と承知している。目下のところは、正確に(利水協議会)すべての方々の意見をまとめて、JR東海にお返しする、それに私は従う」と答えていた。

2022年4月の田代ダム案の提案以来、県専門部会では3回開催、同案について重箱の隅をつつくような意見が繰り返され、JR東海はそれにていねいに答えていた。だから、川勝知事は今年11月9日、「県専門部会でおおむね了承されている、と承知している」と回答。利水協議会の大勢に従うと述べた。

ところが、11月28日になると一転して、森下部会長の個人的見解を根拠に、田代ダム案を認めることをやめてしまった。しかも県専門部会で説明を求めるというハードルを課しただけでは済まなかった。

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