米中が苦慮する「自由と平等」という取扱危険物 「混ぜると危険」な物質を共存させる「つなぎ」

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内田のアプローチの仕方は、国際政治学の専門家のそれとは随分違う。戦力の分析や、イデオロギーの正当性や、ジオポリティカルな分析や指導者のパーソナリティーリスクといったことは語られていない。

そもそもアメリカの大統領の任期は4年に過ぎず、3選は認められていない。中国は比較的長期政権だが、党内の熾烈な権力闘争による政権転覆のリスクに常に晒されていることは歴史が証明している。ひとりの政治家が長期的な国家構想を支えきることなどできない。

両国の国家的な意思決定の背景には、両国民が内面化している無意識的な欲望が必ず反映されるはずだ。これが、内田が採用し、本書で展開しているアイデアだ。これを内田は、「戦略意志」と呼んでいる。なるほど、そんなことに専門家が深入りするはずはない。なぜなら、そこにはデジタルな指標もなければ、確固たる証拠もないからである。

内田がとった戦略は、小説や映画の中の、物語の中に、両国民の思考の形式を見出すというものである。これがめっぽう面白い。それこそが「街場」の賢人による国際政治論だということだろう。

こうした内田の手法は、悪ガキのような独裁者であるドナルド・トランプがなぜ今もアメリカで人気があるのかについて、その政治的な思想や概念について百万言を費やして説明するよりも説得力のある説明をしている。トランプのセルフイメージが、アメリカのリバタリアニズムの伝統の延長上にあることは誰でも理解できるだろう。では、リバタリアニズムとはいったいどのようなものなのか。

 クリント・イーストウッドはある時期から(たぶん1986年の『ハートブレイク・リッジ』から)「無学で、暴力的で、セクシストで、レイシストだと思われて家族からは嫌われているが、実は無垢で善良で真の英雄であることが危機に際会した時にわかる」という役ばかりを演じるようになりました。(『街場の米中論』p61-62)

トランプが法や事実を無視しても人気がある背景

ある種のアメリカ人たちはそこに「リバタリアン」の理想を投影した。故郷を持たず、いかなる集団にも帰属しない独立独行の人。宵越しの金は持たず、妻も子もなく、トラブルの解決は司法に委ねず、自分の拳か銃でケジメをつける。そして、英雄的な行為の後に黙って荒野に消え去るというのが、内田が解説するアメリカ男性における「理想像」であり、それは今なおアメリカ人の内面に強く伏流している。

法や事実を無視しても、偽善者たちを叩き潰すドナルド・トランプの人気を理解するカギがそこにある。それはまた、合衆国憲法第8条に規定されている常備軍保持の禁止に繋がっており、憲法修正第2条における人民の武装の権利条項にも繋がっている。陰謀論や反知性主義的な言説が次々に現れ出るのも、ここにその遠因があると言える。

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