米中が苦慮する「自由と平等」という取扱危険物 「混ぜると危険」な物質を共存させる「つなぎ」

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ふたりがクラスで浮きあがるのは当然だった。一般に、子供のときに才能を輝かせていた秀才は、大人になるにしたがって、凡庸な小市民になりがちであり、そのこと自体は素晴らしいことだと言うべきなのだが、内田くんは高校に入った以降も波乱の人生を送ったようである。それは私も同じだったかもしれない。長じて一緒に会社を作ったり、同人誌を発行したりと、再び彼との共犯的な時間を共有することになるわけだが、『東京ファイティングキッズ』という本を一緒につくったのは、東京の南の外れの小学校の記憶が私たちの出発点だったからである。

水と油、自由と平等のような、ともに大切な要素だが、「混ぜると危険」な物質を、調整し、お互いの長所を生かしたままで共存させるためには、それ自体ほとんど明瞭な意味をなさない、友愛といった第の「つなぎ」が必要だという小学校の担任のアイデアはなかなか見事なものだったと思う。個人的な欲得と違って、友情も、愛情も、尊敬も、それ自体単独では意味をなさない概念であり、もっぱら相反する2つの理念をつなぐ次元の異なる関係概念であると言える。

果たして、幼少時に我々が内面化したこの生活上の知恵は、現在の国際政治における地政学的な反目を解決する糸口たり得るのか。本書は、専門家が国際政治学や地政学的な知見を並べ立てて、今なお解決不能な問題を前にして、街場の賢人が腕組みしながら、そういえば、こんなことがあったと意想外な角度から解決の糸口を探り出している。

アメリカの問題は中国の問題でもある

本書のタイトルは『街場の米中論』だが、語られているのは自由を標榜するアメリカと、平等を標榜する中国という2つの国家がともにその内部に抱え込んでいる矛盾がどのようなものであり、両者がそれをどのようにして解決してゆこうとしているのかを論じたものである。

当然ながら、その解決の手筋は両国で異なっているが、本書はアメリカ論が中心で、中国に関しては多く語られてはいない。だが、アメリカの問題はそのまま中国の問題にも通じているとも言える。どちらも国内統治における「自由と平等」の取り扱いに苦慮しているからである。その問題解決の手筋を決定するのは何であり、その手筋が導く結末に何が待ち受けているのかの推理をするのが本書の目論見ということになるだろう。

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