赤字続く老舗・松竹、歌舞伎も映画も振るわぬ実情 コロナ禍で大打撃、4期ぶりの黒字復活なるか

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演劇と並ぶ柱である映画事業も、苦しい状況に立たされている。

松竹が2022年に配給した作品は全34本で、興行収入は168億円だった。32本の配給で興収628億円を稼いだ東宝や、22本の配給で興収325億円だった東映とは開きがある。

ライバルとの差を生んでいる要因の1つが、アニメだ。

近年は映画興行収入ランキング上位をアニメ作品が占める状況が続き、『男はつらいよ』などの実写映画の製作・配給に強みを持つ松竹にとっては逆風だ。髙橋社長も「われわれは『ジャンプ』作品や定番アニメ(の版権)を持っているわけではないのでなかなか厳しい」と、苦しい胸の内を明かす。

対照的に、アニメブームの波に乗っているのが、業界で圧倒的シェアを誇る東宝だ。2024年2月期は『名探偵コナン』新作映画の大ヒットなどにより、最高益更新も視野に入る。ジブリや新海誠監督の作品をはじめ、子供向けの定番アニメも複数配給している。

東宝のセグメント別利益推移

コロナ禍で発表した中期経営計画では、アニメを「映画・演劇・不動産」に続く第4の柱と位置づけ、配給に限らず、アニメの“製作(出資)”に力を入れる。12月映画公開予定の人気アニメ『SPY×FAMILY』では、製作幹事会社にもなっている。

東宝が演劇でも利益を上げる理由

映画の好調により、いち早くコロナ影響から脱した東宝だが、映画と演劇の両方を手がけるという意味では松竹と同じだ。東宝は自社で保有するアニメ版権を演劇でも活用するなどして、演劇単体でも着実に利益を積み上げる。

東宝関係者によれば、演劇は「最初の公演で衣装やセットに大きな費用がかかるが、再演を繰り返すことによってそれらを回収していく」ビジネスモデルだ。ただし、劇場は2~3年ほど前から押さえておく必要があり、作品が思わぬヒットとなっても、映画のように急きょロングランに変更することはできないという。

演劇で利益を出すには、単に演目数を増やすのではなく、準備段階から確実に集客が見込める人気演目をそろえておく必要があるわけだ。ファン層が厚いアニメを、演劇でも積極的に取り入れる東宝の戦略は、その意味でも理にかなっていると言える。

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