日本を去って行く「外国人看護師」のもったいなさ 深刻な人手不足も、受け入れ制度が対応せず

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冒頭のAさんは2014年に来日し、関西地方の病院で働き始めた。試験対策としては、1日に1時間の勉強時間が与えられるだけだった。「合格者が多い病院では、半日は勉強の時間が取られていた」(Aさん)というように、施設間で支援体制にばらつきがある。

在留期間中に試験に合格できなかったAさんは、看護師よりも試験が易しい准看護師の資格を取得し、同じ病院で働き続けることになった。

EPAは在留期間内に合格できない場合は原則帰国することになっている。だが、准看護師の資格を取得して就労ビザに切り替えることで、さらに最長4年間雇い続けるという施設が現れた。病院からしても、せっかく育てた候補者を帰国させるのは惜しいのだ。

ところが、准看護師になれば日本人と同等の看護人材として雇用するため、病院側のサポート義務もなくなる。Aさんは残業時間が増え、試験勉強の時間がさらに取れなくなる。1年後、病院から引き留められながらも、帰国する道を選んだ。

こうしたことは珍しくない。

「日本人でも難しい医療専門用語を短期間で習得し、働きながら国家試験に合格するのはそうとう難しい。教材と自習時間を与えるだけの施設もあり、こうした独学に近い状態では合格率は低い」と、候補者の試験対策を支援する朝戸サルヴァドール千鶴さんは言う。

応募条件の緩和が必要

15年前の制度設計が実情にそぐわなくなっているとの指摘もある。EPAの候補者になるための応募条件としては、母国での専門教育や病院での就労経験など、日本人の受験資格では求められない要件までもが課せられている。

例えばフィリピンの場合、看護師候補者として来日するには、本国での看護師資格の取得が必要なうえ、さらに本国の病院でも3年間の就労経験が必要だ。

介護福祉士の候補者になるのも条件が高い。日本人が介護福祉士を受験するには学歴の要件がないが、外国人には本国での看護学校修了や大学の学位などが課せられている。

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