日本を去って行く「外国人看護師」のもったいなさ 深刻な人手不足も、受け入れ制度が対応せず

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過度な学歴や就労経験の要件が課せられたのは、当時「外国人の非熟練労働者の受け入れを認めない」という政府の方針があったからだ。ところがこの間、こうした政府の方針と労働者不足を埋めたい現場とのずれが、しだいにあらわになった。2019年に創設された特定技能は単純労働の業種にも広がっている。

しかし、EPAの要件は見直されないままだ。例えば、EPAの看護師候補者は国家試験の受験が4回までに制限されるなど、厳しい要件がいまだに緩和されていない。

外国人看護師問題に詳しい静岡県立大学国際関係学部の米野みちよ教授は、「コロナ禍を経て、アメリカをはじめ他国では急速に外国人ケア労働者の応募条件を緩めている。日本の応募条件や在留期間を実情に合わせて見直さなければ、他国に取られ、応募者自体がいなくなってしまう」と語る。

10年がかかりで試験に合格

国家試験に合格した外国人看護師は、医療現場で欠かせない存在になっている。

フィリピン人のBさんは、2011年にEPAの看護師候補者として来日。その後准看護師としても働くも、在留期間中に国家試験に合格できず、2018年にいったん帰国した。帰国後、前出のサルヴァドールさんに出会い、受験のサポートを受けながら試験勉強を続け、2021年についに試験に合格。来日から10年後のことだ。

帰国前に働いていた病院からも戻ってきてほしいと要望があったが、勤務体系が柔軟な有料老人ホームで看護師として働き始めた。Bさんは現在、夫と子どもを日本に招き寄せて家族で暮らしている。

「フィリピンの看護学校の同級生たちはアメリカで働きたいという人が多いけど、私は日本で働きたかった。日本人は優しいし、日本が大好きだったから」とBさんは笑顔で話す。

カナダやアメリカではケア労働者を好条件での受け入れる政策が進み、世界的な人材の奪い合いが加速している。Bさんのようにあきらめずに日本で看護師を目指す人もいるが、魅力的な受け入れ条件のある国に流れていく人もいるだろう。日本で育てた貴重な候補者たちの定着を図るためにも、制度を見直す時だ。

井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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