アトキンソン氏、「新・所得倍増計画」を提言 2030年、訪日客8200万人も狙える日本の底力

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IRにも関連しますが、エンターテインメントも充実させるべきでしょう。日本の方はよく、日本に来てもらって、日本文化、日本のよさを理解してもらいたいとおっしゃいますが、「日本のよさを理解する」ことは、外国人観光客の主たる観光動機ではありません。

外国人は、異国文化を楽しみ、刺激を受けるために来ています。先進国なら10時間以上かけて来てもらって、20万円以上を使ってもらうのですから、何はともあれ楽しんでもらわなければ、リピーターにはなってくれません。「日本のよさを理解してもらう」のは、あくまで2次的な目的だと思ったほうがいいでしょう。

エンターテインメントとしての文化財

そのためには、やはり「文化財」が大切です。現状より、もう少しきれいな状態をキープするのは当然ですが、解説と展示がなければ楽しくないし、刺激にもなりません。

日本の文化財は、解説も展示もないことが少なくありません。ただ単に、そこに建っているというだけなのです。これでは、そもそも日本について詳しくない外国人は楽しめません。わかる人はわかる、という感じなのです。

また、「多言語対応さえすれば内容は薄くてもいい」と言わんばかりの解説や展示も見られますが、これもいただけません。解説や展示は、中身を重視しなければなりせん。ひどいものになると、日本語の解説をただ直訳しただけというケースも見受けられますが、「徳川家康」を「Ieyasu Tokugawa」と訳しただけでは、外国人にはそれが人名なのか地名なのか、はたまた別の何かなのかすら、まったく見当がつかないのです。

潜在能力と比べて訪日外国人観光客が少ないのは、情報発信の問題も多少はあるかもしれませんが、私としては、このような「整備」の問題がいちばん大きいと思っています。

外国人に楽しいと感じてもらえるような「整備」がなされていれば、外国人たちは自国に戻って自然にクチコミをしてくれます。無理に情報発信をしなくても、日本の魅力は広まるのです。

そういう意味では、下村博文文部科学大臣が提唱し、文化庁が推進している「日本遺産(Japan Heritage)」事業には、大いに期待しています。これは、従来「点」として考えられてきた複数の文化財を一定のテーマやストーリーでつなぐことで、観光資源として活性化しようとするもので、これによって外国人観光客に、より「楽しんでもらう」ことができると考えています。

いずれにせよ、日本は、潜在力からすれば、すでに観光大国になっているはずです。力はあるのです。あとは、それを生かすかどうかだけの問題です。

人口激減時代に入りつつある日本にとって、産業として世界一成長している観光市場は、経済成長のためにとても魅力的です。何しろ、潜在能力は十二分にあるのに、いまだほとんど手つかずなので、「伸びしろ」がとても大きいのです。私は、この市場を徹底的に開拓することで、日本経済は「第2の高度成長期」を迎えることができるとすら考えています。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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