趣里の迫真演技が伝える「貧困に喘ぐ女性の現実」 ドラマ「東京貧困女子。」監督×脚本家対談【前編】

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高羽:「貧しい生活」とはどんなものか。単にお金がないだけではなくて、どんなふうに心を削るのか、子どもたちの可能性を摘むのか、次世代へと連鎖していくのか。そういうところまで想像できている人って、あまりいないんじゃないかと思います。私自身も、この作品にかかわるまではそうだったんですけど。

主人公「摩子」という存在に込めたもの

高羽:ドラマの中で取材対象となる女性たちは、田辺桃子さん、東風万智子さん、霧島れいかさん、宮澤エマさんなど錚々たる俳優さんに演じていただいていますよね。リアリティを出すために、演出上、どんなお願いをしたんですか?

青木:演出上、お願いしたのは「なるべく素人に近づいてほしい」ということです。おそらく「演じる」ということを超えていかないと、演技を素人っぽさに落とし込むことはできません。だから、そうとう無理なお願いをしたと思います。

高羽:名だたる俳優さんだけあって、みなさん、すぐにのみ込んで素晴らしい演技をしてくださいましたね。

青木:はい。取材側である主人公を演じる趣里さん、三浦貴大さんも、僕の要望をしっかり受け取ってくださって、特に取材シーンは真に迫るものになっていると思います。

貧困女性の取材シーンを演じる趣里さんと三浦貴大さん(写真:WOWOW)

高羽:作劇上の仕掛けでも、やはり趣里さん演じる雁矢摩子という存在がすごく大きかったですね。出版社の編集者で、もうひとりの主人公である三浦貴大さん演じる﨑田祐二と共に貧困女性を取材する摩子は、一見、常識的で正義感が強いタイプなんだけど、女性の貧困の実情が何もわかっていないし、女性の貧困に現れている社会全体の問題が見えていない。無意識の偏見もあります。

青木:しかも、実は彼女自身も貧困という構造に巻き込まれている側なのに、それに気づかないまま無知をさらしたり、いらぬ親切で取材対象を傷つけたりしてしまう。

高羽:はい。こうした無理解による行き違いは現実の社会でもありふれたことであり、「摩子の目線」=「視聴者の目線」だと思っています。視聴者の方々に、「貧困にあえいでいる女性たちは、この同じ世界に実際に存在している人間なんだ。他人事じゃないんだ」と感じてもらうためには、最初から事情がよくわかっている人ではなく、「何もわかっていない人」を据える必要がありました。

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