インフルエンザとコロナ「同時流行」起きるワケ なぜ夏にもインフルエンザの流行が続いたのか

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また、すでに流行しているウイルスを元にワクチンを作るのと、“流行しそうな”ウイルスを元にしてワクチンを作る点でも、季節性インフルエンザのワクチンは分が悪い。2009年の新型インフルエンザ流行時は、実際に流行しているウイルスを元にインフルエンザワクチンが製造された。その場合のワクチンの有効率は87%であり、ちゃんと作ればちゃんと効くのだ

では、インフルエンザが流行してからワクチンを作ればいいではないか? その通りだが、現行の日本のインフルエンザワクチン製造には鶏の有精卵を使っているため、生産するスピードに限界がある。また、日本では生産されたインフルエンザワクチンの全ロットを検定しているため、時間がかかる。

海外ではコロナウイルスワクチン同様のmRNA技術(ウイルスのタンパク質をつくるための遺伝情報)を用いたワクチン製造に移行しつつある。それならば迅速にワクチン製造が可能だ。高病原性鳥インフルエンザがヒトに感染するようになり、新型インフルエンザになった際も、迅速にワクチンを製造できるほうがベターだ。日本でも製造方法を検討すべき時期にきている。

「ツインデミック」となる可能性

インフルエンザとコロナの同時流行は起きるのだろうか? 2023年の年初、コロナのピークは1月6日だった。インフルエンザのピークは6週目であり、流行期は重なっていた。ただし、やはりウイルスが干渉するのだろうか、インフルエンザの流行のピークは例年ほど高くなかった。そして、そのことが長びくインフルエンザシーズンの原因となっているのだろう。

コロナの流行は、また冬期に繰り返し、12月から1月にかけてピークを迎えると予想される。インフルエンザは、すでに多くの人が感染しているため、そこまで高いピークにはならないだろうが、流行時期は被り、ツインデミックとなる可能性が高い。

来たるツインデミックでは、さらに懸念事項がある。医療機関を受診しても、薬がもらえないのだ。いまもニュースになっているが、医療機関では咳止めや痰切りといった薬が不足している。あまり報道されていないが、肺炎など気道感染のときによく使う抗生剤も不足しているし、実は小児用のタミフルドライシロップも不足している。

この冬をなるべく安全に過ごすには、今シーズンすでに罹った人もインフルエンザワクチンを接種し、高齢者など重症化リスクの高い人はコロナワクチンを接種し、人混みではマスクをし、家に帰ったら石けんで手洗いして過ごすことに尽きるだろう。

久住 英二 内科医・血液専門医

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くすみ えいじ / Eiji Kusumi

1999年新潟大学医学部卒業。内科医、とくに血液内科と旅行医学が専門。虎の門病院で初期研修ののち、白血病など血液のがんを治療する専門医を取得。血液の病気をはじめ、感染症やワクチン、海外での病気にも詳しい。

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