「異色」社長が牽引するタムロンのレンズ革命
カメラレンズ専業で世界シェア4割のタムロン。社長の小野守男は自称「革新家」だ。「製品へのこだわりは、トップダウンで形にしていく。レンズは小さく、軽く、そしてオートフォーカスはより静かに、速く」。
昨年8月に発売した焦点距離70~300ミリメートルの交換レンズ「A005」。高性能レンズを採用し、独自の手振れ補正機能や無音に近いオートフォーカスシステムも搭載した。この望遠ズームで小野がこだわったのは、価格。4万9800円--。ライバルの半値程度と、市場に価格破壊を巻き起こす値付けをした。
「望遠ズームは性能がよくても安いものがないと、ある専門家が指摘したわけ。その専門家は、5万円以下でつくれたら市場は拡大する、とも言い切る。ならば『その価格で製品化しよう』となった」。開発のきっかけについて、小野はこのように語る。最初から「値段ありき」で走り出した、というわけだ。
低価格で高利益率 海外生産拡大が奏功
目算どおり、A005は発売と同時にユーザーの支持を得た。当初は家電量販店で品切れが続出、その後も月平均1万本と、従来機種の10倍以上の売れ行きを見せている。
価格をやみくもに下げて、利益率を落としては元も子もない。その点、小野は「A005は粗利益率が50%以上。従来機種より、10%以上も高い」と明かす。低価格だが高利益率。その理由は、海外生産の現地化促進と量産効果の発現にある。
タムロンは労務費が安い中国での生産を積極的に進めてきた。同業でレンズ専門のシグマが国内のみでの生産を続けているのに対し、タムロンは生産の95%を中国工場が手掛けている。日本から技術者を派遣し、金型設計からレンズ加工、組み立てまでの一貫生産体制をいち早く構築。今回は中国やタイで部材を大量購買するなど、海外調達を推進した。
また、通常、レンズの製品化には金型費用1億5千万円がのしかかる。今回は価格を下げて販売数を大幅に増やすことで、製品1台当たりの金型償却費を下げることができた。
好採算のA005が牽引役となり、2010年度は、売上高が前期比14%増の566億円、営業利益が同2倍以上の54億円となった。今11年度は東日本大地震の影響もあり慎重に見ているが、それでも売上高610億円、営業利益56億円と、増収増益を描く。