日本政府の格付けAa2を引き下げ方向で見直し《ムーディーズの業界分析》

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格付けを支える要因

日本の格付けを支えている主な要因は、国内投資志向を生み出している厚みのある金融市場である。日本政府はどの先進諸国よりも低い名目コストで資金調達を行うことが可能である。また、世界的金融危機後、および3月11日の震災後の数カ月を通しても、日本国債は、厚みがあり信頼できる調達基盤を持つことにより、安全投資対象として引き続き高いパフォーマンスを示した。

この国内投資志向に加え、高水準の対外支払いポジションにより、日本は外部ショックの影響を免れている。構造的な経常黒字に加え、GDP比50%を上回る対外純資産は先進諸国の中でも最大で、ドイツの約2倍である。一方、Aa格のスペインとイタリアは、対外純債務国である。事実、対外資産からの所得収支のほうが、貿易収支よりも、経常黒字に大きく貢献している。

最後に、強固な対外支払いポジションは、日本の大規模な輸出企業の競争力を反映している。昨今の円高にもかかわらず、輸出セクターが引き続き、成長と対外ポジションを長期的に支えていくとムーディーズは見ている。

将来の格付けアクションにつながる要因

日本の極めて大規模な経済と、非常に厚みのある金融市場は、経済に対するショックを吸収する基盤を提供している。しかし、政府債務の大幅な増大から、財政再建を軌道に戻すための取り組みが喫緊の課題となっている。また、政府が多額のリファイナンスニーズを抱えているため、信用市場における転換点の到来の可能性を高めるかもしれない。そうなれば、国債価格の急落と利回りの急上昇がもたらされ、格付けに下方圧力が加わるとみられる。

格付けの見直しでは、次の2点を重視する。(a)政府が提案する包括的な税制改革の範囲、実効性、および実施時期の適時性の評価、および(b)3月11日の震災に関連する短期および長期の財政コストと、震災が経済に及ぼす影響。

ムーディーズは、他のリスク要因から直ちに格付けへの圧力が生じることはないと見ているが、いくつかの分野で、次に挙げるようなマイナス方向への展開が見られれば、格付けの方向性に下方圧力が加わるであろう。

1. 国内金融資産が枯渇し、政府のリファイナンスニーズを十分に賄い切れなくなった場合。これは、家計貯蓄率がマイナスになった場合に生じうる。
2. 経常収支が赤字に転じた場合。これは貯蓄の減少傾向を受けて生じ、政府の資金調達コストは諸外国の国債市場と同程度まで上昇する。また、日本国債のリスクプレミアムも急激に上昇する可能性がある。

政府財政の安定化と政府債務の増加傾向を反転させるような財政・経済改革案が実施されれば、Aaレンジの格付けとの整合性が保たれるだろう。

一方、今後も弱い経済成長見通しが続く中で、改革プログラムの内容に実効性が乏しい、あるいは実施が遅れるような場合は、格付けに加わる下方圧力が増大し、Aaレンジの格付けを維持できる可能性が低下するだろう。

日本政府に対する前回の格付けアクションは11年2月22日で、日本政府債務格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に変更した。

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