日本政府の格付けAa2を引き下げ方向で見直し《ムーディーズの業界分析》
ソブリン・リスク・グループ
SVPリージョナル・クレジット・オフィサー
トーマス・ バーン
ムーディーズは、5月31日、日本政府の自国通貨建ておよび外貨建て債務格付けAa2を引き下げ方向で見直しの対象とした。
今回の格付けアクションは、経済成長見通しの悪化と、緩慢な政策対応によって、政府が信頼できる財政赤字削減目標を設定し、それを達成することが難しくなるとの懸念の高まりに伴うものである。効果的な戦略を打ち出さなければ、すでに他の先進国を大幅に上回る水準にある政府債務が、さらに膨張するのは避けがたいであろう。
日本国債の発行が困難になるような危機的状況が短中期的に発生するとは考えにくいが、長期的には圧力が高まる可能性があり、現在の高い格付けにおいても、その点を考慮する必要がある。また、将来のいずれかの時点で転換点が訪れ、日本国債にリスクプレミアムが織り込まれる可能性がある。
今回の決定のより詳細な背景は次のとおりである。
1. 3月11日の東日本大震災に関連する経済・財政コストが当初の予想をはるかに上回る規模となることにより、世界的金融危機が財政と経済に与えたマイナスの影響が、まだ日本経済が完全に回復していなかったにもかかわらず、より拡大しつつあること。
2. 現在の政策の枠組みでは、今後も適切な時間軸において財政赤字削減を達成できないとの懸念があること。
3. 人口動態上の圧力の高まりや、危機後の不安定かつ不確実なグローバル経済環境において発生しうる新たなショックに対して、長期的財政再建戦略が脆弱であること。
今回の格付けアクションは、Aaaの外貨建て債務・銀行預金のカントリーシーリングには影響を与えず、Aaaの自国通貨建て債務・銀行預金のシーリングにも影響を与えない。
シーリングは、国内に居住する他の発行体の自国通貨建ておよび外貨建て債務に付与されうる格付けの上限となる。短期債務格付けは影響されず、P-1にとどまる。