怒りを抑えられない人に欠けた「大切な考え方」 実は「怒り」は自分を守る感情である

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もうひとつ大事な点は、「怒りを伝えること自体が悪いのではない」ということです。

とくに深い傷つきがあり、「迎合・服従」のパーツが働いている人は、怒りの気持ちを表現することに抵抗感を持ちます。

しかし、そうした「相手に寄せる」戦略を持っている人が、「怒り」を見せようとする、というのはある種の信頼が生まれている証でもあります。

受け止める側としても、ズレを教えてくれることは、良好な関係を維持する上でとても有益な情報であり、ありがたいと感じるものなのです(これは、相手があなたを支配しようとしているのではなく、対等で安定した関係を築きたいと思っていた場合に限ります)。

怒りや違和感は、大事なズレを教えてくれる重要な感情

個人的な話になりますが、僕自身も相手との間にある「ズレ」になかなか気づけず、気づかぬうちに相手に不快な思いをさせてしまうことがあります。そして、相手が「怒り」を見せてくれたことで、それまでのコミュニケーションが実はうまくいっていなかったことに気づかされ、ショックを受けることもあります。

しかし、関係性が壊れるリスクを背負ってまで「ズレがある」「うまくいっていない」という正直な気持ちをあらわにしてくれたことに対して、感謝の気持ちを持って受け止めたいとも思っています。

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一方で、表現された怒りがあまりに大きすぎると、そのメッセージを受け止めることができず、ショックを受けてしまう人が多いというのも事実です(僕の個人的な感覚としては、こちらの「3」の過失に対して、「3」の表現で返してくれたら一番いいなと思うけど、「10」くらいまでなら何度かは耐えられるかな。でも、「97」だったらたぶん受け止めきれないだろうな、という感じです)。

相手が大切な人であるほど、その人との間にズレがあることを認めることはつらくなりますし、それを指摘することはとても勇気が必要なことです。それでも、そのズレと向き合って、お互いに丁寧に修正していくことが、関係性を深め、より安心なものへと育てていくために大切なことなのではないかとも思います。

怒りや違和感というのは、そういった大事なズレを教えてくれる重要な感情であり、決して無視されるべきものではありません。

それを関係性の向上に生かすには、本来の「私」の怒りと「わたし」によって増幅されている分を見極めた上で、適切な伝え方をすることが望ましいでしょう。

鈴木 裕介 内科医・心療内科医

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すずき ゆうすけ / Yusuke Suzuki

2008年高知大学卒。内科医として高知県内の病院に勤務後、一般社団法人高知医療再生機構にて医療広報や若手医療職のメンタルヘルス支援などに従事。2015年よりハイズに参画、コンサルタントとして経営視点から医療現場の環境改善に従事。2018年「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原saveクリニックを高知時代の仲間と共に開業、院長に就任。また、研修医時代の近親者の自死をきっかけとし、ライフワークとしてメンタルヘルスに取り組み、産業医活動や講演、SNSでの情報発信を積極的に行っている。

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