台湾初の国産潜水艦建造で吹き出た情報漏洩疑惑 「台湾はパートナーになれるのか?」日米で疑問噴出

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台湾初の潜水艦が建造されたが、製造過程で情報の漏洩疑惑が発覚した(写真・2023 Bloomberg Finance LP)

台湾初の国産潜水艦の命名・進水式が2023年9月28日、台湾南部・高雄の台湾国際造船(台船)で開催。10月10日の双十国慶節や、3カ月後に迫った総統選挙に向けた与党・民主進歩党(以下、民進党)と蔡英文総統の実績をアピールする絶好のタイミングで行われた。

台湾にとって潜水艦建造は、アメリカなどの友好国から武器を購入するよりもはるかにハードルが高いとされ、建造はできても時間や費用が相当かかると言われていた。そのような中で完成させたのであるから、台湾中で歓喜に沸いた。

国際政治の視点から台湾の潜水艦建造の意味を考えると、アメリカを始めとするインド太平洋の同盟国・友好国が、中国の武力による拡張にくさびを打ち込んだと言える。

中国の拡張にくさびを打ち込んだ

地政学上、台湾はいわゆる第一列島線の要に位置し、南部はバシー海峡に面している。中国の軍艦や潜水艦が太平洋に進出するには、バシー海峡の通過は必須だ。また、日本にとっても中東から輸入する原油の9割が同海峡を通るため、重要海域であることは間違いない。

台湾の潜水艦建造計画は馬英九前政権時代の2016年に始まった。しかし、潜水艦を一から建造することに加え、中国の有形無形の圧力やそれに対する国際社会のムードなどもあり、総統府国産潜水艦プロジェクトチームの座長に黄曙光氏(当時海軍司令、二級上将)が就任してから国防部長(国防大臣に相当)が3人も代わるほど月日が経過していた。

式典では、当時、蔡英文総統から共に建造を託され国防部長だった馮世寛退役軍人委員が、黄氏の後ろで「兄弟、お疲れ様!」と声をかけたという。すると涙が二筋。これまでの苦労が馮委員の一言で思い出されたのか感極まったようだ。

しばらくして落ち着くと、「自分の残りの人生は、全部、国に捧げたよ」と答えたそうだ。1人の男が仕事をやり切った様子を表していると同時に、台湾が潜水艦建造で多大なプレッシャーに遭遇していたのかがよくわかるエピソードである。

中国と中国に呼応する勢力からの妨害に幾度となく遭う中、少なくとも7カ国(アメリカ、イギリス、オーストラリア、韓国、インド、スペイン、カナダ)から協力を得て建造されたと言われている。

昨今の日台関係の友好と深化の度合いや、世界で初めて機関にリチウムイオン蓄電池を採用した「そうりゅう型」潜水艦やバージョンアップされた「たいげい型」を建造できる日本にも声がかかったと考えてもおかしくないはずだ。しかし、武器輸出三原則や中国への配慮から建造計画への参画は見送られたという。

一方で式典には、実質駐台日本大使館にあたる日本台湾交流協会の岡島洋之副代表も、米韓の代表らと並んで出席していた。このことから一部の台湾人の間では何かしらの協力があったと考えられており、前向きに捉えられているそうだ。

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