パナソニック「トヨタ流カイゼン」で効率爆上がり 特命チームの「伝承師」が生産性向上を後押し
ただ、裏を返せばそれだけ従来の作業にムダな工程が多かったともいえる。
オペレーション戦略部で現場力革新課の課長を務める福井祐子氏は、「正直に言うと、この活動を始めるまでは全社的にものづくりの現場で多くのムダがあった。それを見た楠見社長が、『ムダ取りが1丁目1番地だ』といって動き始めた」と振り返る。
ホワイトボードで困りごとを収集
ムダ取りの過程はこうだ。
まず現場の従業員が自身の困っていることや気づいたことをリーダーなどを通して報告する。リーダーは付箋に困りごとを書いて専用のホワイトボードに貼り付ける。事務部門の従業員が現場を観察して気づいたことなども同時に収集し、まずは現場で改善できるかを判断する。
現場だけで解決できないことは「大部屋」と呼ぶ会議に提出する。大部屋には伝承師に加えて工場長や生産技術、品質管理などの責任者が一堂に会して費用対効果から優先順位を判断。即断即決でムダ取りを進めていく。製品の設計に関わる部分では設計部門などへ意見を上げることも行う。
仕組みの導入当初には苦労もあった。伝承師の1人、芹田満映さんは「導入当初は困りごとが何百件も出てきて、実施する側が困ってしまった。即断即決、といいながら停滞してしまい、(困りごとの)出し手も『解決してくれない』と不満をためてしまった」と語る。
それでも優先順位のつけ方を工夫したり、取り組み状況を適宜現場に伝えるようにしたりと徐々に改善を進めた結果「今では現場に行くだけで製造リーダーの方から声をかけてもらえるようになった」(芹田さん)。
生産性の向上だけではなく、一連の活動を通じて現場のコミュニケーションが活性化したことで、製造現場の雰囲気もよくなってきているという。
「ムダ取り」のその先へ
ムダ取りが進んできたことでパナソニックHDの企業価値が見直され始めている。長らく「1倍割れ」が続いてきたPBR(株価純資産倍率)は今年6月以降1倍を回復。投資家からの評価が徐々に高まりつつある状態だ。
しかし、ムダの削減には限界がある。この先さらに企業価値を高めていくためには、楠見社長以下パナソニックHDの経営陣が投資家からの期待を集められるだけの成長戦略を示す必要があるだろう。
今年5月に開いた経営説明会では「成長ステージへギアを上げる」(楠見社長)として車載電池への重点投資など一定の方向感を示したものの、具体的な戦略はまだ明らかにしていない。
競争力強化のための2年間を経てパナソニックHDはどこへ向かうのか。現場のひたむきな努力に報いるだけの確かな成長戦略が必要だ。
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