多様性を競争力に--外国人CSRコンサルタントが考えるダイバーシティの生かし方
たとえば戦略的な枠組みを設けて、担当役員をこの領域に置くことは、ジョンソン&ジョンソン(J&J)など多くの米国企業が行っています。ダイバーシティ&インクルージョンのビジョンステートメントを作成したり、日本でも最近導入する企業が出てきましたが、ダイバーシティ・オフィスを設置している企業もあります。
従業員向けプログラムでは、アファーマティブアクションもあれば、参加型のさまざまなプログラム、教育プログラムを行っている企業もあります。日本ではまだ少ないですが、サプライヤー向けプログラムを行ったり、コミュニティの貢献・協働や顧客向け・参加型のダイバーシティを重視する企業や、従業員調査などさまざまなサーベイを実施している企業もあります。
ダイバーシティ・マネジメントの先進的な取り組みをいくつか紹介してみましょう。アメリカの企業の場合、文化的背景が反映されていますが、オフィス・オブ・ダイバーシティ&インクルージョンという組織をまず作り、そのうえで従業員の自主的なリソースグループ(アフィニティグループ)というものを設置し、共通の特性を持った従業員が企業の中で働くに当たって感じている課題を解決したり、自分たちの力を発揮するために検討する機会を作っています。
たとえば、ケロッグでは、「Women」「African American」「Latino」「Multi National」などのグループがあり、その中で障害をどのように乗り越え、会社の成長のために自分の能力を発揮するにはどのようなことを行えばよいのか議論できるようになっています。
J&Jは明確なビジョンステートメントを提示してそれを展開するため、ダイバーシティ・ユニバーシティという教育的な取り組みを行なっています。ここでは、単に研修を行うのではなく、「ダイバーシティ・ユニバーシティ」という社内の枠組みに落とし込み、研修をやらされているのではなくダイバーシティ・ユニバーシティの一員だというマインドが生まれるような工夫が行われています。こうした取り組みはJ&Jだけではなく、多くのアメリカ企業でも見受けられます。
さらに一歩進んで、社会協働やソーシャル・エンゲージメントにおけるダイバーシティをどのように重視するかということでは、AT&Tの例があります。AT&Tでは、「Aspire − Connecting Our Youth」というプロジェクトで、ヒスパニック系やアフリカ系アメリカ人の高校中退を食い止め、そのコミュニティのダイバーシティがもっと活かされるように支援ができないかという社会貢献プログラムを行なっています。
さらに、社会貢献によるマルチカルチュラル(多文化)な組織、多文化的な背景を持った組織への社会貢献を積極的におこなうというメッセージを発信しています。
ロイヤル・ダッチ・シェルは、「ダイバーシティ&インクルージョン シェル」という小冊子を作成して、最終的には「才能」「リーダーシップ」「競争力の向上」という3つに結び付けていくフレームワークを示しています。また、社員調査において、どれくらいわれわれはダイバーシティ・インクルージョンを実践できているかということを指標化して測っています。
従業員に対する「職場において私は敬意をもって処遇されている」「異なる考えや視点が評価される職場である」「従業員に関する幹部層の意思決定は公平である」など5つの質問を作り、従業員の答えを指標化し、さらにKPI(重要業績評価指標)化する取り組みを進めています。
最後に「市民社会・地域社会」「顧客」「投資家・金融機関」「従業員」という各ステークホルダーが会社をどのように評価しているのか、あるいはその評価を高めるために何ができるのかチェックするための1つの表を紹介します。
ここに挙げた8つの側面において、わが社の評価はどのようになっているのか、ここ数年を見るとゼロ評価、あるいは極めて低い評価となっているのか、一定の評価や一定の改善が見られるのか、高い評価を得られているのか、大幅な改善が見られると評価されているのか、ということをステークホルダーの視点で見るためのものです。自社のダイバーシティ・マネジメントを進めていくために、1つの指針として利用していただければ幸いです。
CSR全体でもよく言われますが、最終的に財務指標的にどのように表れてくるかを直結させる話は非常にむずかしいです。その努力をしてもかなり不毛な場合が多いと思います。企業の取り組みが直接的に財務指標や株価につながるかというと、そこには多様な要因があるので簡単には言えません。
ただ、ひとつ言えることは「こういった重要なステークホルダー・グループの評価が高ければ高いほどその会社は強い競争力を持つ」ということ。これだけは間違いないです。
だから、ダイバーシティ・マネジメントを推進しているから売り上げが増えたとか、株価がこのように推移したという評価を行おうとすると、おそらくフラストレーションがたまるだけです。ですが、競争力があるか否かを決めるステークホルダーの観点から見て、われわれは最近どう評価されているか。こういったことを経営層にフィードバックすることも1つの面白い取り組みではないかと思っています。
以上、あっという間に時間がなくなってしまいましたが、必ずしも1つの決まった方向性があるわけではありませんが、いろいろな観点からダイバーシティ・マネジメントについてお話しをさせていただきました。
ご清聴ありがとうございました。
ピーター D.ピーダーセン 株式会社イースクエア代表取締役社長
1967年デンマーク生まれ。コペンハーゲン大学文化人類学部卒業。日本在住20年。2000年、木内孝氏(イースクエア代表取締役会長)とともに環境・CSRのコンサルティングやネットワーク運営を行う�イースクエアを設立。02年にはLOHAS(健康と環境を志向するライフスタイル)という考えを日本に紹介し、環境成長経済、カーボン・ニュートラルやカーボン・オフセット、本来農業など、未来を創るさまざまな新しいキーワードを提案している。著書に『第5の競争軸 21世紀の新たな市場原理』(朝日新聞出版:2009年9月発行)、『LOHASに暮らす』(ビジネス社:2006年1月発行)など多数。
[第4回ダイバーシティ経営大賞基調講演より 当講演は2011年4月21日に開催されました]
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