多様性を競争力に--外国人CSRコンサルタントが考えるダイバーシティの生かし方

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 ダイバーシティ・マネジメントと競争力の関係も同様で、企業の成長と従業員の幸せがトレードオフではなくトレードオンの関係を築く、さらには従業員が能力を発揮することで企業としてより効果的に社会・環境的課題の解決に貢献できるようにする、あるいはコミュニティと顧客の多様性を尊重していく中で会社をどのように発展させていくのか、トレードオンのスパイラルを作っていくことが求められてきています。

では、持続的な価値を創造し持続するためには、ダイバーシティ・マネジメントを行うに当たって何が重要かと言うと、CSRゼロ線を超えるということです。

CSRに即して考えますと、法順守・リスクマネジメントやコンプライアンスの取り組みは「CSRゼロ線」以下です(図参照)。ゼロ線とは、CSRにおいて当然の期待、経営では当たり前の品質であるということです。ある程度優良な企業であれば、法順守やコンプライアンスより上のプロアクティブ・マネジメント、たとえば環境マネジメントでいうとISO14000、ISO以外でも人事マネジメント、サプライチェーン・マネジメントをきちんと行っています。

ここで重要なことは、プロアクティブ・マネジメントの一部が「CSRゼロ線」の上にあるということで、こうした課題を積極的に管理していくことが競争力の向上につながるということです。その上には、社会協働や社会参画・社会投資、ソーシャル・エンゲージメントの領域と、事業革新やサステナブル・プロダクツ&サービスの領域があります。
 
 この4つの領域をCSRととらえますと、下の領域は企業統治の問題で企業として当然行うべきもので、行わない場合はマイナスの評価となります。そして、上の領域を実践することで初めて社会やステークホルダーからプラス評価を得ることにつながります。

私はダイバーシティ・マネジメントやCSRの評価を行うときにはこの「CSRゼロ線」を使用しています。このモデルにそって、ベンチマークと比べてどのような取り組みが足りないのか、あるいはどのような取り組みを打ち出したらいいのか考えます。

積極管理のうち「CSRゼロ線」を少し超えた取り組みは、アメリカでは非常に盛んで、たとえばシリアルメーカーのケロッグはサプライヤー・ダイバーシティ・プログラムを展開して、特に女性とマイノリティのビジネスエンタープライズを積極的にサプライヤーとして採用しています。日本企業では、ユニクロのファーストリテイリングが障害者雇用のフロントランナーとなっています。

ユニクロの障害者雇用率は01年には1.27%と低迷していましたが、トップの号令で「1店舗に1人」という方針を決め、1年で1.27%から6.35%に上昇しました。09年度のデータでは8.04%です。
 
 しかも特例子会社を作るのではなく、各店舗で戦力としてきちんと働いてもらっています。こうした努力はステークホルダーのかなり強いプラス評価につながっているのではないかと思いますし、従業員のモチベーションのプラスにつながっていると思います。

社会協働や社会参画・投資、ソーシャル・エンゲージメントによるダイバーシティの取り組みは、競争力の向上にどのように貢献するのでしょうか。日本では例はありませんが、欧米やアフリカの大手企業を見ますと、コミュニティのダイバーシティをサポートする、あるいはコミュニティのエンパワーメントをサポートするということが最近クローズアップされてきています

その一例ですが、南アフリカにスタンダードバンクという大手銀行があります。さまざまな面白い取り組みをしていますが、その1つとしてブラック・エンパワーメントというものがあります。この銀行は黒人所有比率が50%を超える中小企業に自社の株を無料で割り当てて、コミュニティでのブラック・エンパワーメントを促進していくという活動をしています。このように社会貢献プログラムの中でダイバーシティを非常に重視する取り組みが起きています。

事業革新やサステナブル・プロダクツ&サービスにおけるダイバーシティは、顧客のニーズをいかに取り込んで商品革新を進めていくのかということにつながります。例を2つ挙げると、ボルボでは、女性チームを設けて女性に受け入れられる車とは何かというプロジェクトを行い、コンセプトカーを開発しています。

P&Gはラテン系・ヒスパニック系アメリカ人向けの商品革新キャンペーンを実施しています。ラテンアメリカからアメリカに移住してきたヒスパニック系の人たちの生活サポートもしながら、P&Gではヒスパニック系アメリカ人がどういう商品ニーズを持っているかヒスパニック系の団体と組んで商品ニーズを汲み上げ、商品の革新を行っています。

ダイバーシティ・マネジメントに有効な型はあるのか

では、ダイバーシティ・マネジメントにはどのような企業にも利用できるような「有効な型」はあるのでしょうか。ダイバースとは多様なわけですから、決して1つの型があるわけではありません。その企業が置かれている歴史的背景や文化的属性、あるいは対象とする市場によって違うというのがダイバーシティ・マネジメントの難しいところですが、ダイバーシティ・マネジメントのリーディングカンパニーと言われるような企業には取り組みの枠組み、アプローチの仕方に共通のものがあると思います。

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