村上系ファンドの餌食に、静岡・老舗企業の盲点 拙速なTOBに対してアクティビストが揺さぶり

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不自然なのは、TOBの公表と同時に、焼津が中期経営計画の計数目標を下方修正したことだ。会社側は原材料費の高騰を理由に挙げるが、市場動向に詳しい関係者は「TOB価格を正当化すべく、将来の業績を低く見積もったのだろう」と指摘する。

東洋経済の取材に対して、焼津は「(ナナホシの原告適格性を排除するために)TOBを決定した事実はない」とコメントした。また、静銀出身者が特別委員会の委員に就任した点についても、「利益相反にはあたらない」と説明している。

拙速さが否めないTOBにつけ込んだのが、冒頭のアクティビストたちだ。アクティビストの買い増しによって焼津株はTOB価格を突破。9月19日に期限を迎えたものの応募が集まらず、買い付け期間は10月18日まで延長された。

上場企業にとって「他山の石」

足元の株価は1300円前後で推移しており、このままではTOBが不成立となる可能性が高い。買い付け価格の引き上げなど、TOB不成立時の対応についてJ-STARに取材を依頼したが、期限までに回答はなかった。

TOBの成否にかかわらず、アクティビストとっては儲かる取引になりそうだ。TOBが成立した場合、アクティビストは保有する株式を「適正価格」で買い取るよう会社側に請求する公算だ。J-STAR側がTOBを諦めた場合でも、焼津に対して自己株買いといった株主還元を求める可能性がある。発行済み株式の2割を握られている以上、焼津にとっては無下にできないだろう。

TOBが株主軽視とみなされれば、たちまちアクティビストの餌食となる。焼津の事例はほかの上場企業にとっても、他山の石となりそうだ。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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