村上系ファンドの餌食に、静岡・老舗企業の盲点 拙速なTOBに対してアクティビストが揺さぶり

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公開買付届出書によれば、焼津が株式の非公開化に動き出したのは3月下旬。動機について「株式市場からの短期的な業績期待に左右されない状況下で、十分な事業投資を行い、かつ大胆な経営改革を行うことが経営上の合理的な選択肢」(一部抜粋)としている。

ところが、TOB賛同に至った会社側の説明を、投資家は額面通りに受け取っていない。「株主としては到底看過できない」。こう憤るのは、焼津の株主である投資ファンド「ナナホシマネジメント」の松橋理代表取締役だ。

焼津は2019年、全製品の2割超で添加物やアレルギー原材料の表記が不十分だった不祥事を起こしている。2020年3月期決算では、取引先への賠償などで約6億円の品質関連損失を計上した。

松橋氏は2022年10月から事件に関して経営陣と対話を行い、山田潤社長と当時の取締役に善管注意義務違反があると考えた。そこで6月15日、両名に約6.4億円の損害賠償請求を提起するよう、会社側に求めた。

そうした中、8月に発表されたのがTOBだ。焼津が非公開化されると、スクイーズアウトによってナナホシは株主ではなくなり、会社に対して損害賠償の提訴を請求する権利を失う。TOBの真の理由は、現社長らの訴訟逃れというわけだ。

TOB価格の決定プロセスも問題視

疑義が呈されているのは、TOBの動機だけではない。TOB価格の決定プロセスにも問題がある。焼津は4月17日、TOB価格の妥当性などを判断する特別委員会の設置を決議した。委員に選定された1人が、静岡銀行の出身者だった。

静銀は焼津の大株主かつメインバンクであるだけでなく、TOB資金として最大100億円の資金を融資する予定だ。利害関係者である静銀の出身者が委員に就任していると、買い付け価格が安価であっても、古巣におもねるあまりTOBの成立を誘導させる誘因が生じうる。

静岡銀行の所有するビルに焼津水産化学工業の東京営業所が入居。昵懇な関係がうかがえる(記者撮影)

TOBの買い付け価格である1株1137円は、直近株価にプレミアムがついているとはいえ、PBR(株価純資産倍率)に換算すると0.7倍にとどまる。M&A(企業合併・買収)では、独立した第三者評価機関に対して取引価格や公正性を仰ぐ「フェアネスオピニオン」を取得することが一般的だが、本TOBでは取得されていない。

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