モサドを出し抜いた「隠密アナログ作戦」の巧妙 世界屈指のイスラエル情報機関が弱点を露呈

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さらに、ハマス指導者の多くも計画を知らされていなかったとの報道も複数あり、ハマスが極めて隠密に準備した可能性が高い。イスラエルとしては技術に依存し、ハマスが極めて隠密にかつアナログな手法を徹底したことで、良質な情報の収集に失敗した可能性は十分に予想される。

また、良質な情報自体がハマスによる攻撃のタイミングを知らせてくれるものとは限らないことにも留意しなければならない。要は、いつ、どこで、という具体的な警告を含む情報が収集できるのは“まれ”であり、断片的な情報の点と点を結び、総合的に分析されなければならないのだ。

危機を過小評価した背景

②分析/評価

AP通信によれば、エジプト当局者はイスラエル側にハマスの大規模攻撃の可能性があると事前に警告したが、同国に過小評価されたと語ったという(イスラエル首相府は報道を否定している)。

インテリジェンスにおいて、“情報の軽視/過小評価”は代表的なミスの例だ。今回はその布石がある。

2021年以降、イスラエルはハマスの関心が“経済”にあると認識し、ガザ地区に経済的安定を与えようとガザ地区のパレスチナ人がイスラエルやヨルダン川西岸地区で働けるように許可証を与えるなどしていた。さらにイスラエルは、サウジアラビアとの関係正常化に取り組んでいたため、ハマスから関心が逸れていたという(これらの中には当然ハマス側の“攻撃する気がない”という態度を見せる工作も含む)。こうした背景が情報の軽視に繋った可能性がある。

アメリカのシンクタンクのCSISは、イスラエルがハマスの能力を過小評価していたとも分析している。もっとも、それはイスラエル情報機関としての過ちであるか、インテリジェンスを受け取った意思決定を行うべき中枢の問題であるか、または双方であるかは断定できない。また良質な情報が存在していても、分析官がそれを見逃したり無視したりした場合も同様の失敗に直面することになる。

イスラエル側に、このようなインテリジェンス上の過失があった可能性は十分にある。そこにハマス側のイスラエル諜報をかいくぐるアナログな手法と隠密な計画、そして両者の背景事情が組み合わさったことにより、今回の事態を招いたといえるのではないか。いずれにせよ、本件については長い時間をかけて必ず検証されることだろう。

稲村 悠 Fortis Intelligence Advisory株式会社代表取締役

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いなむら ゆう / Yu Inamura

Fortis Intelligence Advisory株式会社代表取締役、(一社)日本カウンターインテリジェンス協会代表理事、外交安全保障アカデミー「OASIS」講師。1984年生まれ。東京都出身。大卒後、警視庁に入庁。刑事課勤務を経て公安部捜査官として諜報事件捜査や情報収集に従事。警視庁退職後は、不正調査業界で活躍後、大手コンサルティングファーム(Big4)にて経済安全保障・地政学リスク対応に従事した。その後、Fortis Intelligence Advisory株式会社を設立。経済安全保障対応や技術情報管理、企業におけるインテリジェンス機能構築などのアドバイザリーを行う。また、一社)日本カウンターインテリジェンス協会を通じて、スパイやヒュミントの手法研究を行いながら、官公庁(防衛省等)や自治体、企業向けへの諜報活動やサイバー攻撃に関する警鐘活動を行う。メディア実績多数。著書に『企業インテリジェンス』(講談社)、『防諜論」(育鵬社)、『元公安捜査官が教える 「本音」「嘘」「秘密」を引き出す技術』(WAVE出版)。
X: https://twitter.com/yu_inamura_spy
公式サイト: https://www.japancia.com/

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