「仕事を奪われるより怖い」生成AIがもたらす不幸 「不幸になる人」「幸福になる人」の決定的な差

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ユートピアにおいては、まず、社会全体が豊かでなければならない。そして所得分配が平等でなければならない。さらに、働くことが苦痛ではなく、生きがいでなければならない。自由な意見を述べることが許され、政治的な自由が確保されていなければならない。これらすべての条件が満たされた社会は、似たものになる。

これに対して、上の条件の1つでも実現されなければ、社会はディストピアになってしまう。だから、ディストピアにはさまざまなものがあるのだ。

特に注意すべきことは、AIがもたらすディストピアは、すべての人が貧しくなり、すべての人が不幸になるというような世界ではないことだ。

戦争や大災害、あるいは天候不順による凶作の場合には、そうした状況になるかもしれない。しかし、AIがもたらす社会は、そうしたものではない。

生成AIがもたらす社会では、すべての人が不幸になるわけではない。「他の人々が不幸になっても、自分は幸福になる」という状況が生じるはずだ。なぜなら、そして、その恩恵を享受する人が必ずいるからだ。多分それは、AIを開発した企業とその関係者だろう。

ただし、それらの人々に限定されるわけではない。AI開発企業と関係のない人であっても、新しいAI技術をうまく利用することで、生産性を向上させ、仕事や所得を増やすことができる人はいる。つまり、ディストピアの中でも成功者が存在する可能性は、十分にありうるのだ。

では、どうする?

ではどうしたらいいか? AIの進歩をすべて止めてしまえばいいのか? そして、今の社会をずっと続ければいいのか?

しかし現在の社会は、けっして理想的なものではない。豊かな人もいるが、貧しい人もいる。貧しい家庭に生まれた子供たちは、能力を伸ばす機会を与えられない。そうしたことは、ぜひAIの力で解決してほしいものだ。

それでは、いったいどうしたらいいのか? 政府は、こうしたことを考えて社会をどのような方向に導けばいいのだろうか。

AIの能力がどこまで進展するかも、まだわからない。だから、どのような対策を講じたらよいのかという根本問題に関して、はっきりした答えが得られない面がある。われわれは、AIの進歩を見守り、それをどう制御をし、どのようにして望ましい社会を築きあげていくことに使えるかを考える必要がある。

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野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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