佐野史郎、2021年は大病患い「もう駄目だ」と思った コロナ禍に多発性骨髄腫を発症…彼が今語ること

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(写真:平郡政宏)

佐野個人の物語と家族の物語、それに国の物語や一見関係ない彫刻の物語まで、すべてを織り交ぜてひとつのものに構成してるわけだから、まぁ、法事みたいなものですね。当初は、ただカレンダーを撮る仕事をしようとしただけで、ここまで広がりを見せるとは思っていなかったけれど、そのように物事を見ているんだなと自覚させられました。

もう駄目だ、早く楽にしてくれと思ったことも

── そういう想いは多発性骨髄腫という大病をされて、生死をさまよった経験によって得られたものなんでしょうか。

佐野:僕の病気が発覚した2021年春は、ちょうど新型コロナの流行の真っ只中で、志村けんさんや岡江久美子さんが命を落とされていました。初期のウイルスは疾病を持った人間にとっては直接命に関わるものだったし、それに個人の闘病が同時進行で起きた。敗血症も患って、もう駄目だ、早く楽にしてくれと思ったこともあったから、よく戻ってきたなとは感じます。

本来だったら死ぬはずだった人間を、現代医学という錬金術のような魔法によって蘇生させてもらった。あの時のことを考えると今こうして元気で写真展をやっているのが信じられないくらいで。大病によって考え方が変わったわけではないけれど、自分が何が好きか、どうしたいかということには自覚的になったところはありますね。これまで自分が思っていたことが確信には変わったかもしれません。

(写真:平郡政宏)

── 治療のあいだも、俯瞰的な目でご自身を見ていたと仰っていましたね。

佐野:病気の時に俯瞰的になったのは、どうやったら精神的にダメージを受けないかという自己防衛的な感じでした。ただ、鳥瞰の視点は持ちたいといつも思っています。世阿弥の言葉に「離見の見」というのがありますが、「離れたところから自分を見る」ことで己の状態を知り、次にどうすれば良いかを探ることができる。

優れた監督や演出家からは物事を正面から見るのではなく、背後から、あるいは全方向から見るという身体感覚を教わります。そういう幽体離脱のような感覚を手に入れられれば表現者としてはしめたものだけれど、それは本当に難しい作業で。時折、舞台の上などでその感覚を掴むと、観客の皆さんがとても集中しているのがわかります。

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