佐野史郎、2021年は大病患い「もう駄目だ」と思った コロナ禍に多発性骨髄腫を発症…彼が今語ること

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── 彫刻の森美術館からカレンダーの写真を依頼された時にはどのように感じましたか。

佐野:今から10年ほど前に、俳優仲間で兄弟と呼び合う井浦新さんが、同じく彫刻の森美術館で写真展をやっているんです。そんな縁もあって2021年にお話をいただいたんですが、その直後に僕は血液がんの一種である多発性骨髄腫であることが発覚したんです。それで撮影を一年延期してくださり、彫刻の森などを1年間にわたり撮影しました。

新と、それから永瀬正敏さんも、俳優仲間の中でも特にその審美眼に共感しています。林海象組や若松孝二組で一緒に仕事をして、彼らは写真家としても活動していますしね。僕が長男で永瀬さんが次男で、新が末っ子みたいな感じで、個性はそれぞれ違うけど、その眼差しには共通するものがあるのかもしれません。

(写真:平郡政宏)

佐野:例えば僕は、ギリシャの映画監督テオ・アンゲロプロスやソ連のタルコフスキーが大好きなんです。「人間は素晴らしい」と人間賛歌をするのではなく、自然物や人工物と同じように人間を捉える眼差しを持っているから。そういうアニミズム的な視点に僕は心動かされるし、新や永瀬さんの演技を見ていてもそうした自己に対する客観性を感じるんですよね。

── 今回の写真展のタイトル「瞬間と一日」にはどのような意味があるのでしょうか。

佐野:タイトルはアンゲロプロスの映画『永遠と一日』から拝借しました。死を前にした詩人の最後の一日を描いた作品ですが、一瞬の中に永遠がある、一日と永遠が変わらないこのひと時である、という感覚にとても心を動かされたので。

写るということ自体がとんでもない奇跡

── ピンホールカメラという古典的な撮影方法を使うなど、興味深い写真がたくさんあります。

佐野:ピンホールカメラはレンズではなく小さな穴から差し込む光線を取り込んで像を定着させるという写真の原点なんです。それを使って撮った、写真展のポスターにもなっている一枚は、野外にある彫刻を写しています。赤い巨人の男が飛び立っていく、あるいは降臨しているようにも見える。

三脚を立てて数分間露光して撮ると、雲が流れているので光の入り方が変わり、二重露光のようになったりするんです。動いている人間が映らなかったり、見えない球体が写ったり。写るということ自体がとんでもない奇跡であり、驚きであるというのも改めて感じましたね。

(写真:平郡政宏)
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