「この本は私が出す」60代の彼女に起業させた絵本 エストニア人画家との出会いが運命を変えた
とはいえ、これまでのようにフリーランスで出版社に企画を持ち込み制作するのと、自ら出版社を経営するのとでは、やるべき仕事の量も違えば背負い込む重圧もまるで違う。コストはどれくらいかかるか、価格をどう設定するか、取次はどこに頼むか、書店営業やPR活動はどのように行えばいいのか。何もかも知らない世界だった。
地道にチラシを作り、製本前のプリントアウトを持って大手書店の児童コーナーの担当者にアポを取り、懸命に売り込んだ。
10年後に後悔をしながら生きたくない
60代から1人出版社の立ち上げという新しい世界に飛び込んだ戸塚さん。大きな決断をしたことに驚かされるが、戸塚さんにとっては子育てが終わり、自分の好きなことに集中し、自分のために時間を費やせる環境が整ったタイミングでもあった。
資金は、老後のための貯金の一部を「ここまでは自分のために使おう」と設定し、無理をしてそれ以上に貯金を取り崩したり、借金したりしないと決めている。また、経営や営業の経験はないが、出版業はまったく未知の分野ではなく、これまでの仕事の延長線上である。わからないことがあれば、すでにある人脈を生かして相談できる。
「60歳を過ぎると記憶力や体力が落ち、仕事の効率も落ちることを実感します。だから、起業するならもっと早くすべきかもしれないけれども、これまではなかなかジャンプ台がありませんでした。今でも不安に思うことはあります。在庫の山が売れなかったらどうしようって」と戸塚さんは吐露する。
「でもそれよりも、後悔しながら生きたくない。70代、80代になった時に、50代、60代を振り返って、あの時こうしてれば⋯⋯といった“たられば”を残したくない。やりたかったことは1つでも2つでも、やり遂げた方がいいんじゃないかと思うんですよね。
だって人生いつ終わるかわからないでしょう。人生100年と言うけれどそうじゃないかもしれないし、100歳まで自由に動けるわけじゃない。10年後の自分を後悔させたくない。その思いとレジーナの絵に背中を押されて、大きな一歩を踏みだせました」
green seed booksは、1年に1冊のペースで、10年間で10〜11冊の出版を目指しているという。戸塚さんは今後、どんな本を世に送り出していくのだろうか。
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