日銀の政策形成 「議事録」等にみる、政策判断の動機と整合性 梅田雅信著 ~試行錯誤の政策決定を詳細に分析
理論モデルは、物価と経済に関する明確な選好を持つ中央銀行総裁が、世論や政治の雑音から隔離された静かな環境の中で、経済と物価の安定を目標に、一人で金融政策を決めていると想定している。現実には、出自の異なる複数の専門家が、さまざまな外部の意見に耳を傾けつつも、政治や金融市場からの独立性を強く意識しながら試行錯誤の中で政策を運営している。
本書は、10年後ルールで2008年から公開され始めた政策決定会合の議事録などを基に、ゼロ金利政策などの決定プロセスを詳細に分析したものだ。
対外公表文では、1999年2月のゼロ金利政策の導入は、物価低下圧力や景気悪化といったロジックで説明された。しかし、当時の景気は底打ち感が出始めていた。本書によれば、真の動機は98年12月以降の長期金利急騰を背景に、政府筋から国債購入の圧力が強まる中、日銀の独立性が損なわれない形で政策効果が得られやすいタイミングをとらえることだった。
その後、解除条件が付け加えられるが、それが定量的なものではなかったことや、執行部が独立性を強く意識しすぎたこともあり、翌年8月の解除時には、一部審議委員が反対票を投じ、政府も議決延期請求権を行使するなど混乱が生じた。その後の量的緩和策は解除を含めスムーズに運営されたが、ゼロ金利政策の反省を踏まえ十分に練られた政策だったからだという。
評者は、ゼロ金利政策の最大の問題は解除条件の曖昧さではなく、独立性を意識しすぎ、真の動機を対外的に伏せたことだと考える。この結果、解除条件も導入時の動機と合致しないものが設定された。この点は、量的緩和策も同様で、それゆえ、危機時の異例の政策が長期化し、いつの間にか平時の政策となっているのではないか。
東洋経済新報社 4830円 368ページ
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