名古屋の中小企業が放つ大人気の鋳物ホーロー鍋
鋳物加工技術を生かし無水調理も可能に
台所用品に詳しい黒田秀雄・キッチンシステム研究所所長によると、熱伝導性、保温性、密閉性の3要素を合わせ持っているのは「野外で使われるダッチオーブンだが、(重厚すぎるため)キッチンに持ち込むわけにはいかない。よりスマートなものとして開発されたのが鋳物のホーロー鍋」である。その筆頭格ともいえるル・クルーゼなどのフランス製鍋は、日本でも人気を博している。
ところが、何種類も販売されているフランス製鋳物ホーロー鍋は特許が出願されていないし、製法もまったく公開されていない。結局、手探りで開発することになった。
まずわかったのが、他社品は密閉性に弱点があるということだった。「鋳物というのは、砂型に銑鉄を流し込んで作るものなので精度が低い。そのため、ふたと鍋がガタガタして密閉性が弱い」(土方社長)。
ここから、より密閉性を高めて無水調理も可能な鋳物ホーロー鍋を作るという開発目標が決まった。そのためにはふたを重くし、密閉力を高める必要があった。機械部品加工で培ったノウハウが活用できる分野である。が、日頃の製品は厚さが20ミリメートルや30ミリメートルの機械部品が中心。それに対して「バーミキュラ」は、ル・クルーゼなどと同じく厚さは3ミリメートル。機械部品の要領で加工すると歪みが出る。そこで「手で調整しながら一品ずつ仕上げる工夫」(土方社長)で、課題をクリアした。
次の難題はホーローの吹き付けだった。そもそも鋳物とホーローの相性は悪く、鋳物の炭素が気化して泡の粒ができやすい。当初は3カ月程度で完成できると考えていたが、「失敗作が1000個以上。ホーローが焼き付けやすいように鋳物の成分を変え、フランス製のものと同じものを作るのに1年かかった」と土方社長は振り返る。