中国BYD、実質300万円切る「ドルフィン」の脅威 日本投入第2弾はEV後進国を揺るがす黒船か

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ドルフィンは全世界で累計43万台を販売したBYDのグローバルモデルだ。日本参入に当たって機械式駐車場に対応できるように車高を調整したほか、ペダルの踏み間違いによる急加速を防止する誤発進抑制システムの機能を新たに追加するなど、日本の交通事情に合わせて仕様を変更するなど本気度が伺える。

もっとも、ドルフィンについて「2023年度3月末までの6ヵ月で1100台販売することが目標」(東福寺社長)。ATTO3(440万円から)の販売台数が、店舗数も少ない1月末から8月末までで700台だったことと比べても、さほど高い目標を置いているわけではない。

日本は海外ブランドに厳しく、かつEV後進国

そもそも日本は、海外の自動車メーカーにとって非常に厳しい市場だ。海外ブランドの年間販売台数は24.2万台、販売総数に占めるシェアは5.8%(2022年)しかない。しかも、その3分の2は独ブランドである。

EVの普及も遅れている。2022年度の国内のEV販売台数は約7.9万台で、新車販売台数の1.8%にとどまっている。中国の20%、EUの12.1%、アメリカの5.8%(いずれも2022年)と比べるとEV後進国といえる。

2022年度に日本で最も売れたEVは日産自動車の軽EV「SAKURA」の3.3万台。SAKURAの兄弟車でもある三菱自動車の軽EV「eKクロスEV」もそれなりに売れている。いずれも航続距離は180キロメートルと短いが、254万円からという低価格が支持されたようだ。

軽以外の「登録車」では、早くからEVに力を入れてきた日産の「リーフ」や「アリア」が健闘しているが、トヨタ自動車をはじめとする他の国内勢のEVは1000台にも達していない。一般の消費者にとって、EVはまだまだ縁遠いのが実態だ。

ただ、軽EVを除けば、最も安いリーフでさえ408万円(航続距離は322キロメートル)からで、ほかはもっと高いこともEV購入のハードルになっていると考えられる。363万円の標準グレード(東京都なら実質253万円)で、400キロメートルの航続距離を持ち、運転支援技術や各種装備のスペックでもリーフを上回っているドルフィンが、日本市場でどこまで受け入れられるかは注目に値する。

ちなみに、本国の中国ではドルフィンのスタート価格は約230万円。車載電池の「ブレードバッテリー」やモーターといったコア部品を内製しており、EVのコスト競争力は日本勢を圧倒している。

BYDは南米や欧州といった90カ国以上で販売し、タイとブラジルではEV工場の建設を進めている。日本市場でBYDがすぐに一気にシェアを獲得することはないにしろ、その存在は日本メーカーにとって脅威であることは間違いない。

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井上 沙耶 東洋経済 記者

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いのうえ さや / Saya Inoue

商用車・部品メーカーを担当。大学時代は写真部に所属し、社会学を中心に学ぶ。趣味は、漫画を読むこと、映画のサントラを聴くこと。

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