なぜ人々は「マツコ」にこうも惹きつけられるのか 「マツコ会議」終了に見るマツコ・デラックスの今後

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この話は、先ほどもふれた『8時だョ!全員集合』で加藤茶や志村けんがやっていた他愛無い下ネタを思い出させる。当時の子どもたちはそれを見て大喜びし、まねもした。

マツコは、かつてのテレビが担っていた「バカなこと」をやる場としての役割をフワちゃんが期せずして目指していたことに共感したのだろう。フワちゃんのような考えを持つ若いタレントが登場してきた事実に、「テレビもまだ捨てたものではない」という一筋の希望を見出したのではないだろうか。

終了目前でマツコ・デラックスが見せたもうひとつの顔

では、マツコ・デラックス自身は、これからテレビとどう関わっていくのだろうか? むろん今のままで十分とも言えるが、一方で最近のマツコ・デラックスは新たな方向を模索し始めているようにも思える。

つい先日の『マツコ会議』は、その意味で興味深かった(2023年9月9日、16日放送)。

このときのゲストはお笑い芸人のロバートの秋山竜次。「クリエイターズ・ファイル」という企画で、個性的な架空のキャラクターを次々に演じて評判になっている。この企画のファンだというマツコは、お気に入りのキャラクターをあげながら実に楽しげに秋山とトークしていた。そして途中からは同じく個性的なキャラクターを演じる達人である友近も加わった。

すると最後に、思わぬ展開が待っていた。2人がマツコを誘って3人での「町内会コント」を提案したのである。すると台本なしの全編アドリブであったにもかかわらず、マツコも2人とともに、いかにもいそうな町内会の人物を見事に演じ、その場で即興の歌まで披露したのである。

番組中、マツコは秋山と友近を「ダメな人」と形容していた。むろん褒め言葉である。「ダメな人たち」とは「バカなことをやる人たち」であり、そういう人たちこそがテレビでは面白い。そしてマツコ自身も、その輪に加わったわけである。

今までのマツコ・デラックスは、どちらかと言えば現在は不定期で放送中の『アウト×デラックス』(フジテレビ系)のように、「ダメな人たち」を発掘して紹介する側だった。

だが元々はパフォーマーとして「バカなこと」を自ら実践する側でもあり、その片鱗がこのときの『マツコ会議』には垣間見えた。昔の血が騒いだというべきだろうか。そしてこのパフォーマーとしての姿は、テレビではあまり見せてこなかったもうひとつの顔として豊かな可能性を秘めているのではないか。そう思えたのである。

太田 省一 社会学者、文筆家

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おおた しょういち / Shoichi Ota

東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本社会の関係が研究および著述のメインテーマ。現在は社会学およびメディア論の視点からテレビ番組の歴史、お笑い、アイドル、音楽番組、ドラマなどについて執筆活動を続ける。

著書に『刑事ドラマ名作講義』(星海社新書)、『「笑っていいとも!」とその時代』(集英社新書)、『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『水谷豊論』『平成テレビジョン・スタディーズ』(いずれも青土社)、『テレビ社会ニッポン』(せりか書房)、『中居正広という生き方』『木村拓哉という生き方』(いずれも青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩書房)など。

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