箱庭図書館 乙一著
ウェブ文芸として企画された「オツイチ小説再生工場」から生まれたユニークな短編小説集。ボツになった小説が読者から送られてきて、それらを著者が自由にリメイクする、というのはアマとプロの共同作業のようなものだが、意外によい味わいが生まれた。ボツ原稿の筋書き、登場人物の味わい、筆者の思いといった、いわば小説のパーツを素材にして巧妙、多彩に手を入れたのが、語り口と仕掛けの巧みな乙一だったのが成功の原因である。
オカルト風、ギャグ調、スリラーなど、一筋縄ではいかない物語が六つ。高校文芸部での小説ごっこといびり合いの顛末、どんでん返しが楽しめるコンビニ強盗始末、鍵と鍵穴が主役の犯罪事件、雪の上の足跡が紡ぐ不思議な平行世界(パラレルワールド)。無関係と見えた物語の舞台が文善寺町という平凡な小都市に収斂し、登場人物までしだいに重なってくる趣向は面白い。全編に青春がはじけるかのような余韻がウェブ時代にぴたり合う。(純)
集英社 1365円
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