逆行 尾原史和著 ~時間が逆回転する感覚を大切する
「こういうものを作りたいという欲求を自分自身で生み出せるかどうか」がよいデザイン(仕事)をするための要諦だという著者は、修業時代、印刷会社の四色機のない環境で二色機を二度使い望む色を出すというような綱渡りをしながら技量を磨いていった。そこで「途中段階で完成を想像して頭の中でシミュレーション」をしたという。
彼が作った会社ではデザイナーと建築家がともに仕事をする。「違うジャンルの人たちと一緒に思考するだけで、互いに学び合いになる」という著者の社員教育も独特だ。「辞めた後にもそれで生きていけるような評価の仕方や教育」を心掛ける。「自分の仕事が終わったら、他の人を手伝う」ことを説き、「人を助けていく。それができないと一流じゃない」と断言する。
敢えて間違うようにデザインするというのも著者独特の逆説思考だ。「発見と出会うためには偶然や失敗がもっとも有効」という。そして偶然は「新しいアイディアを必要としているとき、必ずヒントをくれる」とも。
雑誌『R25』刊行のモチーフは「非凡な平凡をめざす」であり、「負荷のまったくないものも、それはそれでユニークで尖った存在になれる」「尖りとは見栄えだけでなく、その本質や内容」と解説する。
「作ったものがどんどん違う変化をしていく」「舞台の大きさは関係なくて、重要なタイミングでその位置にいられるかどうか」など名言が随所にある。
本書のタイトルである「逆行」については、「走馬灯のように時間が逆回転する」感覚を大切にすべきであり、逆行すると「一瞬にして順位も何もかも関係なくなる」効果があると言う。
人生には偶然というチャンスがある、自分の物語を語れという著者のメッセージを励ましと感じる人も多かろう。
おはら・ふみかず
グラフィックデザイナー、アートディレクター。1975年高知県生まれ。99年建築家らとともにSOUP DESIGNを結成。2009年新たにPLANCTONを設立し、マルチプルレーベルで、出版物から靴まで広いジャンルを手掛けている。
ミシマ社 1680円 209ページ
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