政府は無計画な政策の無駄打ちをやめよ

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棄民政策となるおそれ

それだけではない。こうして見ていくと、政府が命名した「計画的避難」とは、まったくの“無計画な対策”としか思えない。その犠牲になるのは原発事故の被害者である。

さらに、5月8日午後、今度は岡田克也民主党幹事長らが飯舘村を訪れた。村の幹部たちとの意見交換の席上、岡田幹事長から「住民の避難で困ったことがあれば言ってほしい」というような言葉はなかった。同幹事長の口から発せられたのは、「避難場所は確保できたか」という言葉だけだった。

さらに、その6日前、飯舘村を訪れたのは、政府の復興構想会議のメンバーたちである。彼らを乗せたバスが村役場の前に着いたのは午後4時ごろ。バスから降りて、村のシンボルであるお地蔵様の前で随行記者たちの写真撮影を受け、そそくさとバスに乗り込んで村を後にした。その間5分間もなかった。

その光景をあぜんとして眺めていた村民たちが発したのは、「村から逃げろと行った後に復興はないだろ」「何しに来たのか」という短い言葉だった。

「棄民政策」という物騒な言葉がある。わが国の近代史の中でも棄民政策は現実に存在した。たとえば、城山三郎氏の小説『辛酸』などで扱われている足尾銅山鉱毒事件の対策として明治政府が行った、遊水池建設をめぐる周辺町村の強制疎開だ。遊水池の中に水没する谷中村の住民の反対運動は弾圧され、結局、北海道の開墾などに強制的に「避難」させられた。

政府は、タイミングを外しているうえ、効果が乏しく、かつ計画性のない政策の無駄打ちはもうやめるべきである。そうしないと、菅政権の震災対策は、「平成の棄民政策」へと転落しかねない。

(シニアライター:浪川 攻 =週刊東洋経済2011年5月21日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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